盧溝橋事件58 バケモノ保安隊1
投稿者: kireigotowadame 投稿日時: 2010/09/03 18:34 投稿番号: [557 / 2250]
寺平忠輔著 『日本の悲劇
盧溝橋事件』 読売新聞社刊
204〜205p
《 七月九日午前九時、私は風順胡同 (フォンシュンホートン) の自邸にある、
冀 (キ) 北辺区保安隊総司令石友三将軍と電話で話をしていた。
「石さん! 僕、寺平です。わかりますか?」
「オオ! 寺平補佐官! 久しぶりです」
「ご家族の皆さん、相変らずお元気でしょうな。忙しい忙しい。
昨日から例の事件でとっても忙しいんです。
昨日は宛平県城で弾の下を潜ってきました。とても得難い経験をしました。
時にお尋ねするんですがねえ。
今日張允栄さんからお話があって、保安隊を宛平城内に入れる事になったんですなあ!
ところがその保安隊は石さんの冀北辺区保安隊だっていうじゃありませんか。
石さんの部下なら、私、一人残らず知っているから非常に好都合です。
隊長はいったいだれが行く事になるんです? 馮寿彰? それとも羅東初?」
石友三はいつもながらの、少しかすれたような声で答えた。
「ところがそうじゃあないのです。今日宛平城に行くのは先農壇に駐屯している、
河北省保安隊です。隊長は賈と云う営長ですがね。
実は昨日、戒厳令が布かれると同時に、河北省保安隊、
つまり省長馮治安の隷下部隊も、私の指揮下に入れられちゃったんです。
だから私にとってはホンの一時的の部下なんです。
いずれはまた、私の手から離れ去ってしまうべき性質のものなんです」
「ナーンだ。じやあまるで臨時傭 (やと) いみたいな保安隊ですね」
「そうです。全くの臨時傭いです。私はまだ顔も見た事がないんですよ。アハハハ……
もっとも命令だけはシッカリ聴かせなきやいけませんから、
私の司令部から参謀の黄雅山、ホラ! ご存知でしょう。
この前、酒を飲んで、武家披 (ウーチャーボー) の歌を唱った、
あれを付けてやる事にしました」
雨は依然、降り続いていた。その日の午後一時半ごろだった。
カーキ色の軍服をまとった二百余の保安隊が、北京城の広安門を後にして、
北京街道を西へ、盧溝橋の方へと前進していった。
チャルメラに似て一抹の哀愁味を帯びた喇叭 (ラッパ) の音、
それに歩を合せて進む保安隊の兵隊達。
笠井軍事顧問と広瀬秘書、それに特務機関の愛沢通訳生が、
この一隊の誘導係兼監督役として、部隊と行動を共にしていた。
笠井顧問は自動車の窓から、時々外の雨雲を見上げながら
「この保安隊が城内に入ってしまったら、事件はこれでもうスッカリ片付いてしまう。
張家口に行ってたばかりに、活躍の好機をとり逃がして、僕は実に残念だ!」
とつぶやいた。「まったく惜しかったですねえ!」 と愛沢通訳生が相槌を打った。
「河辺旅団と連絡のために、俺達はここいらから先行しようじゃないか」
「そうしましょう。オイ! 運転手! 部隊を追い抜いて、
それからグッとスピードを出せ。盧溝橋まで先行するんだ 」》
つづく
204〜205p
《 七月九日午前九時、私は風順胡同 (フォンシュンホートン) の自邸にある、
冀 (キ) 北辺区保安隊総司令石友三将軍と電話で話をしていた。
「石さん! 僕、寺平です。わかりますか?」
「オオ! 寺平補佐官! 久しぶりです」
「ご家族の皆さん、相変らずお元気でしょうな。忙しい忙しい。
昨日から例の事件でとっても忙しいんです。
昨日は宛平県城で弾の下を潜ってきました。とても得難い経験をしました。
時にお尋ねするんですがねえ。
今日張允栄さんからお話があって、保安隊を宛平城内に入れる事になったんですなあ!
ところがその保安隊は石さんの冀北辺区保安隊だっていうじゃありませんか。
石さんの部下なら、私、一人残らず知っているから非常に好都合です。
隊長はいったいだれが行く事になるんです? 馮寿彰? それとも羅東初?」
石友三はいつもながらの、少しかすれたような声で答えた。
「ところがそうじゃあないのです。今日宛平城に行くのは先農壇に駐屯している、
河北省保安隊です。隊長は賈と云う営長ですがね。
実は昨日、戒厳令が布かれると同時に、河北省保安隊、
つまり省長馮治安の隷下部隊も、私の指揮下に入れられちゃったんです。
だから私にとってはホンの一時的の部下なんです。
いずれはまた、私の手から離れ去ってしまうべき性質のものなんです」
「ナーンだ。じやあまるで臨時傭 (やと) いみたいな保安隊ですね」
「そうです。全くの臨時傭いです。私はまだ顔も見た事がないんですよ。アハハハ……
もっとも命令だけはシッカリ聴かせなきやいけませんから、
私の司令部から参謀の黄雅山、ホラ! ご存知でしょう。
この前、酒を飲んで、武家披 (ウーチャーボー) の歌を唱った、
あれを付けてやる事にしました」
雨は依然、降り続いていた。その日の午後一時半ごろだった。
カーキ色の軍服をまとった二百余の保安隊が、北京城の広安門を後にして、
北京街道を西へ、盧溝橋の方へと前進していった。
チャルメラに似て一抹の哀愁味を帯びた喇叭 (ラッパ) の音、
それに歩を合せて進む保安隊の兵隊達。
笠井軍事顧問と広瀬秘書、それに特務機関の愛沢通訳生が、
この一隊の誘導係兼監督役として、部隊と行動を共にしていた。
笠井顧問は自動車の窓から、時々外の雨雲を見上げながら
「この保安隊が城内に入ってしまったら、事件はこれでもうスッカリ片付いてしまう。
張家口に行ってたばかりに、活躍の好機をとり逃がして、僕は実に残念だ!」
とつぶやいた。「まったく惜しかったですねえ!」 と愛沢通訳生が相槌を打った。
「河辺旅団と連絡のために、俺達はここいらから先行しようじゃないか」
「そうしましょう。オイ! 運転手! 部隊を追い抜いて、
それからグッとスピードを出せ。盧溝橋まで先行するんだ 」》
つづく
これは メッセージ 555 (kireigotowadame さん)への返信です.