9月14日 松井‐松本会談3
投稿者: kireigotowadame 投稿日時: 2011/03/31 18:54 投稿番号: [792 / 2250]
松本重治氏著『上海時代(下)』中公新書
220〜222p
《 第一には、南京を占領してしまったら、日中戦争が全面戦争になります。
中国側は長期戦を覚悟しています。
日本側は、それをできるだけ避け、一撃で話合いをつけたいというのでしょう。
そういう構想が、上海派遣軍の名称からみても判るようです。
しかし、問屋はおろすまい。
だから、南京まで行かないうちに停戦をでかすことが上策である。
この策は、失礼ながら、松井さんでなければできないし、
同時に、松井さんならできると信じます。
第二は、いうまでもなく、第三国の権益をなるべく損わないようにするのは
もちろん、第三国の武力との摩擦を絶対に避けるべきである。
重要なことは、だいたいこの二点に尽きると考えます」
と、熱心に話すと、松井さんは、
「あまり俺を持ち上げるなよ。君の話については、第二点は、全然同感だ。
これについても君の協力を期待する。
第一点については、俺もひそかに考えていることがあるのだ。
だが、戦争には相手があることだから、こちらだけの計画どおりにはならんことも
あるだろうし、また、軍をいったん動かすとなれば、勢いが加わって、
止めることが容易でないということもあるだろう。
しかし、松本君のいうとおり、上策としては、南京に行かずに戈を収めるにある。
これについて、俺は日夜心胆を砕いているところだ。
この点については、絶対に他言は無用。まだ、ゆっくりしていってくれ。
陣中で、ご馳走はないが」 と、別の食卓に私を誘った。
運ばれてきたものは簡素な西洋式の一品料理であった。
「松井さん、たいへんなご馳走じゃないですか」 といいながら、
「ご健康は如何ですか?」 と尋ねると、
「ウン、ちょっと風邪気味なんだが、熱もないし、たいしたことはない。
実は、こんなことになるのじゃないかと思って、一年前から、熱海で静養しつつ、
体力を養成してきたので、身体の調子は全体としていいんだ。大丈夫だよ」 という。
コーヒーの代りに番茶となったころ、副官が 「原田 (熊吉) 大使館附武官が、
着任の挨拶と上陸作戦ご成功の祝詞を述べるために参りました」 というと、
松井さんは、つと立ち上って、軍司令官の執務机にかえり、
ゆったりと椅子にかけたが、松井さんは、いかにも小兵である。
ドアを排して現れたのは大兵肥満の原田武官であった。
原田武官は、直立不動の姿勢で、挨拶と祝詞を切口上で述べた。
松井さんは、立ちもせず、 「ウン、ウン」 というだけであった。
原田武官の挨拶が済むと、 「しっかりやれっ」 と一言いったあと、
私の方を顧みながら、 「原田、おまえは、同盟通信上海支社長の松本さんを
知っておるか?」 「ハイ、承知しております」。
私は、武官の着任後一、二度会ったばかりであったが、場をつくろうためもあって、
私が一礼すると、武官に対して、
「おまえは、これからも松本さんとよく連絡して、
国際情勢、第三国の意向などをよく教われっ」 との命令口調だ。
こっちは困って、 「武官とも、連絡しております」 と助け舟を出すと、
武官も、 「充分に連絡しております」 という。
「それならば、よろしい」。 こちらの二人は坐ったまま、
原田武官は終始つっ立ったままであり、いささか叱られに来た恰好で、
十五分足らずで、室から出ていった。陸軍では下剋上と聞いていたが、松井軍司令官が、
表面上だけでも、部下を把握しているように思えて、頼もしいと感じた。》
つづく
220〜222p
《 第一には、南京を占領してしまったら、日中戦争が全面戦争になります。
中国側は長期戦を覚悟しています。
日本側は、それをできるだけ避け、一撃で話合いをつけたいというのでしょう。
そういう構想が、上海派遣軍の名称からみても判るようです。
しかし、問屋はおろすまい。
だから、南京まで行かないうちに停戦をでかすことが上策である。
この策は、失礼ながら、松井さんでなければできないし、
同時に、松井さんならできると信じます。
第二は、いうまでもなく、第三国の権益をなるべく損わないようにするのは
もちろん、第三国の武力との摩擦を絶対に避けるべきである。
重要なことは、だいたいこの二点に尽きると考えます」
と、熱心に話すと、松井さんは、
「あまり俺を持ち上げるなよ。君の話については、第二点は、全然同感だ。
これについても君の協力を期待する。
第一点については、俺もひそかに考えていることがあるのだ。
だが、戦争には相手があることだから、こちらだけの計画どおりにはならんことも
あるだろうし、また、軍をいったん動かすとなれば、勢いが加わって、
止めることが容易でないということもあるだろう。
しかし、松本君のいうとおり、上策としては、南京に行かずに戈を収めるにある。
これについて、俺は日夜心胆を砕いているところだ。
この点については、絶対に他言は無用。まだ、ゆっくりしていってくれ。
陣中で、ご馳走はないが」 と、別の食卓に私を誘った。
運ばれてきたものは簡素な西洋式の一品料理であった。
「松井さん、たいへんなご馳走じゃないですか」 といいながら、
「ご健康は如何ですか?」 と尋ねると、
「ウン、ちょっと風邪気味なんだが、熱もないし、たいしたことはない。
実は、こんなことになるのじゃないかと思って、一年前から、熱海で静養しつつ、
体力を養成してきたので、身体の調子は全体としていいんだ。大丈夫だよ」 という。
コーヒーの代りに番茶となったころ、副官が 「原田 (熊吉) 大使館附武官が、
着任の挨拶と上陸作戦ご成功の祝詞を述べるために参りました」 というと、
松井さんは、つと立ち上って、軍司令官の執務机にかえり、
ゆったりと椅子にかけたが、松井さんは、いかにも小兵である。
ドアを排して現れたのは大兵肥満の原田武官であった。
原田武官は、直立不動の姿勢で、挨拶と祝詞を切口上で述べた。
松井さんは、立ちもせず、 「ウン、ウン」 というだけであった。
原田武官の挨拶が済むと、 「しっかりやれっ」 と一言いったあと、
私の方を顧みながら、 「原田、おまえは、同盟通信上海支社長の松本さんを
知っておるか?」 「ハイ、承知しております」。
私は、武官の着任後一、二度会ったばかりであったが、場をつくろうためもあって、
私が一礼すると、武官に対して、
「おまえは、これからも松本さんとよく連絡して、
国際情勢、第三国の意向などをよく教われっ」 との命令口調だ。
こっちは困って、 「武官とも、連絡しております」 と助け舟を出すと、
武官も、 「充分に連絡しております」 という。
「それならば、よろしい」。 こちらの二人は坐ったまま、
原田武官は終始つっ立ったままであり、いささか叱られに来た恰好で、
十五分足らずで、室から出ていった。陸軍では下剋上と聞いていたが、松井軍司令官が、
表面上だけでも、部下を把握しているように思えて、頼もしいと感じた。》
つづく
これは メッセージ 791 (kireigotowadame さん)への返信です.