盧溝橋事件51 中国軍の停戦不履行
投稿者: kireigotowadame 投稿日時: 2010/08/25 18:44 投稿番号: [548 / 2250]
寺平忠輔著 『日本の悲劇
盧溝橋事件』 読売新聞社刊
194〜196p
《 雨がシトシトと降っていた。
一木大隊も木原大隊も命令に基いて、それぞれ兵力の集結にとりかかった。
堆土の脇から、線路のほとりから、兵隊がチョロチョロと現われて、
いずれも後方へ後方へと下り始めた。
突如、ドカーン! すぐ目の前に、物凄い火柱が立った。
敵の迫撃砲弾が、一文字山陣地の一角に落下したのだ。
これを切ッ掛けとして、小銃弾、砲弾、ゴッチャ混ぜにした篠 (しの) つくような
猛射撃が、宛平城の敵から浴せられて来た。
殷々轟々、戦線がにわかに活気を呈し始めた。
「オイ! これはいったい、どうした事なんだ?」
「やつら、日本軍が退却し始めたくらいに勘違いしているんじゃなかろうか?」
とたんに 「集合待てッ 各小隊は元の位置に戻って敵情を監視せよ!」 中隊長からの
命令が敵兵線に逓伝 (ていでん) されて来た。兵は駈歩で再び元居た場所に戻って行った。
「完全に中国側から瞞 (だま) し射ちを食ったな」
「全くだ。今度という今度こそ、連隊長殿もきっと怒っておられるに違いないぞ」
敵弾は依然、頭の上をビューン! ビューン! 飛んで行く。
「オーイ! 衛生兵! 衛生兵はいないか! 松井少尉殿が負傷された!」
「何? 小隊長殿が?」 兵の憤激はいよいよ昂 (たか) ぶって来た。
「小隊長殿! 分隊は射撃を開始しますッ!」
「待てッ! 射っちゃいかぬ。俺が命令するまでは一発も射っちゃいかん!」
身は傷つきながらも乱弾の下、闘志にはやる部下を制し、
一発の応射さえもあえてさせない松井元之助小隊長の苦衷、
実に不拡大に徹した軍紀厳正な部隊といわなければならぬ。
本部通信所では、その時盛んに電話のベルが鳴らされていた。
牟田口連隊長自らが受話器をとっているのだ。
「旅団長閣下でございますか。私は牟田口でございます。
ただいまの戦況をご報告申し上げます。
連隊は協定の趣旨に基きまして、午前五時、盧溝橋駅に終結を始めました。
ところが中国軍は撤退を肯 (がえ) んじないばかりか、宛平城の城壁から、
逆にこちらに対して猛烈な火力を浴せかけて参りました。
まだ、相変らず射ち続けております。そのため味方には戦死一名、
負傷はいままでに報告があっただけでもう三名も出ております。
中国軍としては、こういう事は常套手段かも知れませんが、
実に言語道断、横暴極まる遣り方です。
理屈は抜きと致しまして、敵を沈黙させるため、歩兵砲の全力をもって
制圧射撃を加えたいと思いますがいかがでございましょうか?」
「城内にはまだ住民がいるんじゃないか? それから桜井顧問あたりも……」
「ハアおります。そこで主として城壁に対する威嚇射撃を行なって、
城内には射ち込まぬよう努めたいと思いますが……」
「よろしい。その点だけわかっていてくれたら一切は君の裁量にお委せする。
十分注意してやってくれ給え」
つづく
194〜196p
《 雨がシトシトと降っていた。
一木大隊も木原大隊も命令に基いて、それぞれ兵力の集結にとりかかった。
堆土の脇から、線路のほとりから、兵隊がチョロチョロと現われて、
いずれも後方へ後方へと下り始めた。
突如、ドカーン! すぐ目の前に、物凄い火柱が立った。
敵の迫撃砲弾が、一文字山陣地の一角に落下したのだ。
これを切ッ掛けとして、小銃弾、砲弾、ゴッチャ混ぜにした篠 (しの) つくような
猛射撃が、宛平城の敵から浴せられて来た。
殷々轟々、戦線がにわかに活気を呈し始めた。
「オイ! これはいったい、どうした事なんだ?」
「やつら、日本軍が退却し始めたくらいに勘違いしているんじゃなかろうか?」
とたんに 「集合待てッ 各小隊は元の位置に戻って敵情を監視せよ!」 中隊長からの
命令が敵兵線に逓伝 (ていでん) されて来た。兵は駈歩で再び元居た場所に戻って行った。
「完全に中国側から瞞 (だま) し射ちを食ったな」
「全くだ。今度という今度こそ、連隊長殿もきっと怒っておられるに違いないぞ」
敵弾は依然、頭の上をビューン! ビューン! 飛んで行く。
「オーイ! 衛生兵! 衛生兵はいないか! 松井少尉殿が負傷された!」
「何? 小隊長殿が?」 兵の憤激はいよいよ昂 (たか) ぶって来た。
「小隊長殿! 分隊は射撃を開始しますッ!」
「待てッ! 射っちゃいかぬ。俺が命令するまでは一発も射っちゃいかん!」
身は傷つきながらも乱弾の下、闘志にはやる部下を制し、
一発の応射さえもあえてさせない松井元之助小隊長の苦衷、
実に不拡大に徹した軍紀厳正な部隊といわなければならぬ。
本部通信所では、その時盛んに電話のベルが鳴らされていた。
牟田口連隊長自らが受話器をとっているのだ。
「旅団長閣下でございますか。私は牟田口でございます。
ただいまの戦況をご報告申し上げます。
連隊は協定の趣旨に基きまして、午前五時、盧溝橋駅に終結を始めました。
ところが中国軍は撤退を肯 (がえ) んじないばかりか、宛平城の城壁から、
逆にこちらに対して猛烈な火力を浴せかけて参りました。
まだ、相変らず射ち続けております。そのため味方には戦死一名、
負傷はいままでに報告があっただけでもう三名も出ております。
中国軍としては、こういう事は常套手段かも知れませんが、
実に言語道断、横暴極まる遣り方です。
理屈は抜きと致しまして、敵を沈黙させるため、歩兵砲の全力をもって
制圧射撃を加えたいと思いますがいかがでございましょうか?」
「城内にはまだ住民がいるんじゃないか? それから桜井顧問あたりも……」
「ハアおります。そこで主として城壁に対する威嚇射撃を行なって、
城内には射ち込まぬよう努めたいと思いますが……」
「よろしい。その点だけわかっていてくれたら一切は君の裁量にお委せする。
十分注意してやってくれ給え」
つづく
これは メッセージ 547 (kireigotowadame さん)への返信です.