盧溝橋事件49 特務機関での交渉1
投稿者: kireigotowadame 投稿日時: 2010/08/22 15:17 投稿番号: [545 / 2250]
寺平忠輔著 『日本の悲劇
盧溝橋事件』 読売新聞社刊
187〜188p
《 事件勃発直後、北京特務機関増援のため、
天津軍司令部から急遽派遣を命ぜられてとんで来た、軍参謀和知鷹二中佐は、
その夜特務機関の二階の一室に泊り込んでいた。秦徳純公館から帰った私と
あれこれ話していると外交顧問部の松尾隆男秘書がやって来た。
「補佐官殿! ただいま玄関に張允栄 (ちょういんえい) が参っております。
機関長殿と補佐官殿に、至急お会いしたいって申しますので、
取りあえず大応接室の方に案内しておきました……」
私は反射的に腕時計を見た。 まだ一時を十分過ぎたばかりだ。
− 午前三時という約束が、これはまたえらい早くやって来たじゃないか。
私は応接室の扉をグンと押し開けた。
卵色に輝く電燈が、部屋一杯に和やかな光芒を投げかけている。
「ヤア! 張さん! ご苦労様でした」 機関長と和知参謀、
それに私は張允栄を囲んで腰を下した。
張允栄は日ごろの重い口調で訥々 (とつとつ)と して話し始めた。
「先程補佐官からお申し出のありました件について、
秦市長の代理としてご連絡にお伺い致しました。
結局、秦市長としてもこういう情勢になった以上、如何とも致し方あるまいから、
とにかく撤退はさせようという事に話が決まったわけですが、その実施の方法について、
なお、一、二機関の方のご了解を願わなければならない点がありますので、
一応機関長のご意向をお伺い致したいと存じます。
その一つは、部隊撤退に際して一ケ小隊だけ残置する事を認めていただきたい。
これは決して戦闘の用にあてたり警戒に任じさせたりする意味合いでなく、
城内には相当多数の死傷者がありますので、それを整理したり手当てしたりするために、
どうしてもこれだけの兵力を残置する事が必要と考えられます」
機関長は暫く考え込んでおったが、やがておもむろに反問した。
「いったいその死傷者の数はどのくらいです?」
「サァー・ハッキリした事はよくわかりませんが、
何でも七、八十から百くらいはあるという話でした」
すると和知参謀がいった。
「そんな事いって残さしたら限りがないですよ。
どうしても残すというんなら、五十人なら五十人と、キッパリした数を限定して、
しかもそれらはスッカリ丸腰にして残させるんですなあ!
死傷者を整理するのに剣や鉄砲はかえって邪魔になるでしょうから!
そして半日もかかったら立派に整理が出来ちゃいますよ」
「マア今、和知君のいわれた程度だったら承認しましょう」
松井機関長はジーッと張允栄の顔をのぞき込んだ。
「概略、それだけご承認頂けたら、秦市長も別に異存はなかろうと思います。
つぎに第二の問題は、部隊が撤退してしまうとその後、
宛平城内の治安を維持する者がなくなってしまいます。
そこで部隊と入れ替りに、北京から約五百名の保安隊を入城させたいと思うんです。
もちろんその保安隊の素質だとか装備だとかは、十分吟味して派遣するつもりですが」
それは多すぎる、百名程度だったら承認しようと、議論しているところに
天津の軍参謀部、鈴木嘉一少佐から電話がかかって来た。》
つづく
187〜188p
《 事件勃発直後、北京特務機関増援のため、
天津軍司令部から急遽派遣を命ぜられてとんで来た、軍参謀和知鷹二中佐は、
その夜特務機関の二階の一室に泊り込んでいた。秦徳純公館から帰った私と
あれこれ話していると外交顧問部の松尾隆男秘書がやって来た。
「補佐官殿! ただいま玄関に張允栄 (ちょういんえい) が参っております。
機関長殿と補佐官殿に、至急お会いしたいって申しますので、
取りあえず大応接室の方に案内しておきました……」
私は反射的に腕時計を見た。 まだ一時を十分過ぎたばかりだ。
− 午前三時という約束が、これはまたえらい早くやって来たじゃないか。
私は応接室の扉をグンと押し開けた。
卵色に輝く電燈が、部屋一杯に和やかな光芒を投げかけている。
「ヤア! 張さん! ご苦労様でした」 機関長と和知参謀、
それに私は張允栄を囲んで腰を下した。
張允栄は日ごろの重い口調で訥々 (とつとつ)と して話し始めた。
「先程補佐官からお申し出のありました件について、
秦市長の代理としてご連絡にお伺い致しました。
結局、秦市長としてもこういう情勢になった以上、如何とも致し方あるまいから、
とにかく撤退はさせようという事に話が決まったわけですが、その実施の方法について、
なお、一、二機関の方のご了解を願わなければならない点がありますので、
一応機関長のご意向をお伺い致したいと存じます。
その一つは、部隊撤退に際して一ケ小隊だけ残置する事を認めていただきたい。
これは決して戦闘の用にあてたり警戒に任じさせたりする意味合いでなく、
城内には相当多数の死傷者がありますので、それを整理したり手当てしたりするために、
どうしてもこれだけの兵力を残置する事が必要と考えられます」
機関長は暫く考え込んでおったが、やがておもむろに反問した。
「いったいその死傷者の数はどのくらいです?」
「サァー・ハッキリした事はよくわかりませんが、
何でも七、八十から百くらいはあるという話でした」
すると和知参謀がいった。
「そんな事いって残さしたら限りがないですよ。
どうしても残すというんなら、五十人なら五十人と、キッパリした数を限定して、
しかもそれらはスッカリ丸腰にして残させるんですなあ!
死傷者を整理するのに剣や鉄砲はかえって邪魔になるでしょうから!
そして半日もかかったら立派に整理が出来ちゃいますよ」
「マア今、和知君のいわれた程度だったら承認しましょう」
松井機関長はジーッと張允栄の顔をのぞき込んだ。
「概略、それだけご承認頂けたら、秦市長も別に異存はなかろうと思います。
つぎに第二の問題は、部隊が撤退してしまうとその後、
宛平城内の治安を維持する者がなくなってしまいます。
そこで部隊と入れ替りに、北京から約五百名の保安隊を入城させたいと思うんです。
もちろんその保安隊の素質だとか装備だとかは、十分吟味して派遣するつもりですが」
それは多すぎる、百名程度だったら承認しようと、議論しているところに
天津の軍参謀部、鈴木嘉一少佐から電話がかかって来た。》
つづく
これは メッセージ 544 (kireigotowadame さん)への返信です.