盧溝橋事件43 牟田口大佐の通告
投稿者: kireigotowadame 投稿日時: 2010/08/11 18:31 投稿番号: [533 / 2250]
寺平忠輔著 『日本の悲劇
盧溝橋事件』 読売新聞社刊
169〜170p
《 西岸の敵陣地から、ダダダダッ! とチェッコ製軽機関銃声が不気味に聞えて来る。
ブルルーン! という跳弾が駅舎の屋根をかすめて飛んだ。
やがて迫撃砲弾が付近の鉄道線路上に落下し始めた。
連隊長は駅のホームに起ち上って眉をしかめ、宛平城の方を眺めていたが、
やがて眼鏡片手に
「二十九軍もなかなかやるなあ。 どうもあの城の中にいるやつがこの戦場の癌だ。
あいつさえたたき出してしまったら、河向うの敵なんかあえて問題とするには
足らんのだが……」
と森田中佐の方をふり返った。
「そうであります。寺平補佐官が行ってから四時間もたちますから、
もうかれこれ中国軍を撤退さすとかさせないとか、
北京から何とか返事がありそうなものです。どうも遅うございますなあ」
二人の間に重苦しい沈黙が続いた。
豆をいるような銃声が、まるで内地の機動演習を彷彿たらしめている。
連隊長は再びおもむろに口を開いた。
「大勢上、あの宛平県城はどうしても早く攻略せにゃいかん。
住民を撤退させる事については、何か城内の方に連絡はとってあるのか?」
「イヤ、それもいま北京で寺平君が交渉中なんでありますが、城内にはまだ
なんとも通じてありません」
「これをなんとか城内に連絡する方法はないものか」
「それはここにいる鉄路巡警を使えば出来ない事はありません。
さっきも一回、連絡にやったのですが、その時には確実に伝達をして戻って来ました」
「そうか、じゃあもう一遍それをやる事にしよう」
やがて一片の通告書が、牟田口大佐の手で書きしるされた。
二名の巡警はその通告書を大切そうにポケットに収めると、
一文字山の窪地を縫って一散に宛平城の東門の方へ駆け出して行った。
宛平城内県政府では、団長吉星文を初めとして営長金振中、
その他王冷斉県長や桜井顧問らが、例の客庁で依然、善後策に頭を悩ましていた。
そこへ中国兵が、牟田口大佐の封書を持って駆け込んで来た。
「報告! ただいま東門の外に路警が二人来まして、
この書面を営長に渡してくれといって、持って参りました」
金振中は吸いさしの煙草を卓の端に置いてその封を切った。内容は
宛平県々長王冷斉殿
二十九軍営長金振中殿
不幸なる事態を局地的に解決し、また、宛平城内無辜の民衆を兵火の惨害から
救わんがため、本官は茲 (ここ) に 貴官等に対し、左記二項目を要求する。
一、宛平城内住民を本日午後六時までに、完全に城外に避難せしめる事
二、二十九軍も亦同時刻までに全員、永定河西岸地区に撤退を完了する事
もし右の要求が所定時刻までに完了しない場合、爾後発生するいかなる事態に
対しても、我が方としては一切その責任は負担し得ない。右通告する。
大日本軍指揮官牟田口大佐 》
つづく
169〜170p
《 西岸の敵陣地から、ダダダダッ! とチェッコ製軽機関銃声が不気味に聞えて来る。
ブルルーン! という跳弾が駅舎の屋根をかすめて飛んだ。
やがて迫撃砲弾が付近の鉄道線路上に落下し始めた。
連隊長は駅のホームに起ち上って眉をしかめ、宛平城の方を眺めていたが、
やがて眼鏡片手に
「二十九軍もなかなかやるなあ。 どうもあの城の中にいるやつがこの戦場の癌だ。
あいつさえたたき出してしまったら、河向うの敵なんかあえて問題とするには
足らんのだが……」
と森田中佐の方をふり返った。
「そうであります。寺平補佐官が行ってから四時間もたちますから、
もうかれこれ中国軍を撤退さすとかさせないとか、
北京から何とか返事がありそうなものです。どうも遅うございますなあ」
二人の間に重苦しい沈黙が続いた。
豆をいるような銃声が、まるで内地の機動演習を彷彿たらしめている。
連隊長は再びおもむろに口を開いた。
「大勢上、あの宛平県城はどうしても早く攻略せにゃいかん。
住民を撤退させる事については、何か城内の方に連絡はとってあるのか?」
「イヤ、それもいま北京で寺平君が交渉中なんでありますが、城内にはまだ
なんとも通じてありません」
「これをなんとか城内に連絡する方法はないものか」
「それはここにいる鉄路巡警を使えば出来ない事はありません。
さっきも一回、連絡にやったのですが、その時には確実に伝達をして戻って来ました」
「そうか、じゃあもう一遍それをやる事にしよう」
やがて一片の通告書が、牟田口大佐の手で書きしるされた。
二名の巡警はその通告書を大切そうにポケットに収めると、
一文字山の窪地を縫って一散に宛平城の東門の方へ駆け出して行った。
宛平城内県政府では、団長吉星文を初めとして営長金振中、
その他王冷斉県長や桜井顧問らが、例の客庁で依然、善後策に頭を悩ましていた。
そこへ中国兵が、牟田口大佐の封書を持って駆け込んで来た。
「報告! ただいま東門の外に路警が二人来まして、
この書面を営長に渡してくれといって、持って参りました」
金振中は吸いさしの煙草を卓の端に置いてその封を切った。内容は
宛平県々長王冷斉殿
二十九軍営長金振中殿
不幸なる事態を局地的に解決し、また、宛平城内無辜の民衆を兵火の惨害から
救わんがため、本官は茲 (ここ) に 貴官等に対し、左記二項目を要求する。
一、宛平城内住民を本日午後六時までに、完全に城外に避難せしめる事
二、二十九軍も亦同時刻までに全員、永定河西岸地区に撤退を完了する事
もし右の要求が所定時刻までに完了しない場合、爾後発生するいかなる事態に
対しても、我が方としては一切その責任は負担し得ない。右通告する。
大日本軍指揮官牟田口大佐 》
つづく
これは メッセージ 532 (kireigotowadame さん)への返信です.