盧溝橋事件41 秦徳純来ず電話で
投稿者: kireigotowadame 投稿日時: 2010/08/09 18:30 投稿番号: [531 / 2250]
寺平忠輔著 『日本の悲劇
盧溝橋事件』 読売新聞社刊
166〜168p
《 私の旧知で外交委員の喩煕傑も、さきほど別れたばかりの林耕宇も、皆ここにいた。
「今から秦市長との交渉がまとまったら、その解決案をもたらして、
もう一遍盧溝橋に飛んで行くんだ。もちろん君も行くだろうな」
「そうですね。秦市長に聞いてみないとわかりませんが、
たいてい行く事になるでしょう」
秦市長の到着を待つ間、私は戦況の概要とこちらの希望する要件とを、魏宗翰に説明した。
魏宗翰と喩煕傑とは、息を凝らして熱心にその説明に聞き入った。
「それでこの事を秦市長に連絡をとりたいと思って、
さっきから追っかけ回しているんですが……」
「そうですか。そりゃあお急ぎのわけですね。至急、市長のところへ電話で連絡を
とりましょう」魏宗翰は席をたって出て行ってしまった。
私はソファーに寄りかかって、軽く眼を閉じている間に、
いつの間にか睡魔の虜になってしまっていた。
ものの十五分も経っただろうか。ふと眠がさめたが、秦徳純はまだ来ていない。
のみならず魏宗翰までがあれからスッカリどこかに姿をかくしてしまっている。
私はイライラして、これ以上一刻もジッとしている事が出来なくなった。
「林さん! 主席はいったいどこに雲がくれしちゃったんだ! 捜してきてくれ!」
林耕宇は亜州日報という新聞社の社長も兼務していたので、この時、
宛平城内軍使折衝の原稿を、一生懸命書いているらしかったが、パタリと筆を置いて
「そうですね。捜してきましょう」と部屋の外に出て行った。
それとほとんど入れ違いに、魏宗翰が別の入口から帰って来た。
「どうもエライお待たせ致しました。どうやら秦市長の行動予定がまた変ったようで……」
「また変った? 来ないんですかここには!西田さん! 市長の家に行こう!
その前に電話だ電話だ。魏さん、電話はどこにあります?」
私は主席公室に入って行った。そして卓上の電話で秦市長を呼び出してどなった。
「私はさっきからあなたの後を、どれだけ追っかけ回したかわかりませんよ。
それで今、外交委員会に来ているんですが、
あなたはいったいこちらに来られるんですか来られないんですか?」
すると聞きなれた秦徳純の声が受話器に響いた。
「いまから西苑の三十七師司令部に出かけるところです。会議が始まりますから……」
「ここであなたを取り逃したら、いつまたどこで話が出来るやらわからないから、
取りあえず電話で要件をお話します。よく聞いて下さい。重大問題ですぞ、これは!」
そこで事件調停のための第一案と第二案とを、早口の中国語で五分間ばかり説明した。
そして最後に「この問題は電話なんかじゃ不徹底です。
どうしてもあなたに直接会って話さなきゃならぬ。
ぐずぐずしていたら住民二千の死活にかかわる重大問題なのだから、
西苑行きなんか止めてしまいなさい。いますぐ私がそちらに行くから!」
といった。
すると秦徳純、こちらの要求を極めて簡単にあしらって
「あなたのお話のこの問題ですがねえ。これについてはタッタいま、
天津の橋本参謀長からも電話があったところです。あなたのお話と全然同じなんです。
局部的解決、という事については、いま、全力を挙げて我々も奔走していますから、
やがて円満に妥結が出来ると思います。私はその事についても相談するため、
これから至急、西苑に行かなければなりません。夕方には帰って来ますから、
いずれのちほどまたゆっくり、あなたのご意見も伺いましょう。ではこれで失礼!」
ガチャリ! 電話は切られてしまった。》
つづく
166〜168p
《 私の旧知で外交委員の喩煕傑も、さきほど別れたばかりの林耕宇も、皆ここにいた。
「今から秦市長との交渉がまとまったら、その解決案をもたらして、
もう一遍盧溝橋に飛んで行くんだ。もちろん君も行くだろうな」
「そうですね。秦市長に聞いてみないとわかりませんが、
たいてい行く事になるでしょう」
秦市長の到着を待つ間、私は戦況の概要とこちらの希望する要件とを、魏宗翰に説明した。
魏宗翰と喩煕傑とは、息を凝らして熱心にその説明に聞き入った。
「それでこの事を秦市長に連絡をとりたいと思って、
さっきから追っかけ回しているんですが……」
「そうですか。そりゃあお急ぎのわけですね。至急、市長のところへ電話で連絡を
とりましょう」魏宗翰は席をたって出て行ってしまった。
私はソファーに寄りかかって、軽く眼を閉じている間に、
いつの間にか睡魔の虜になってしまっていた。
ものの十五分も経っただろうか。ふと眠がさめたが、秦徳純はまだ来ていない。
のみならず魏宗翰までがあれからスッカリどこかに姿をかくしてしまっている。
私はイライラして、これ以上一刻もジッとしている事が出来なくなった。
「林さん! 主席はいったいどこに雲がくれしちゃったんだ! 捜してきてくれ!」
林耕宇は亜州日報という新聞社の社長も兼務していたので、この時、
宛平城内軍使折衝の原稿を、一生懸命書いているらしかったが、パタリと筆を置いて
「そうですね。捜してきましょう」と部屋の外に出て行った。
それとほとんど入れ違いに、魏宗翰が別の入口から帰って来た。
「どうもエライお待たせ致しました。どうやら秦市長の行動予定がまた変ったようで……」
「また変った? 来ないんですかここには!西田さん! 市長の家に行こう!
その前に電話だ電話だ。魏さん、電話はどこにあります?」
私は主席公室に入って行った。そして卓上の電話で秦市長を呼び出してどなった。
「私はさっきからあなたの後を、どれだけ追っかけ回したかわかりませんよ。
それで今、外交委員会に来ているんですが、
あなたはいったいこちらに来られるんですか来られないんですか?」
すると聞きなれた秦徳純の声が受話器に響いた。
「いまから西苑の三十七師司令部に出かけるところです。会議が始まりますから……」
「ここであなたを取り逃したら、いつまたどこで話が出来るやらわからないから、
取りあえず電話で要件をお話します。よく聞いて下さい。重大問題ですぞ、これは!」
そこで事件調停のための第一案と第二案とを、早口の中国語で五分間ばかり説明した。
そして最後に「この問題は電話なんかじゃ不徹底です。
どうしてもあなたに直接会って話さなきゃならぬ。
ぐずぐずしていたら住民二千の死活にかかわる重大問題なのだから、
西苑行きなんか止めてしまいなさい。いますぐ私がそちらに行くから!」
といった。
すると秦徳純、こちらの要求を極めて簡単にあしらって
「あなたのお話のこの問題ですがねえ。これについてはタッタいま、
天津の橋本参謀長からも電話があったところです。あなたのお話と全然同じなんです。
局部的解決、という事については、いま、全力を挙げて我々も奔走していますから、
やがて円満に妥結が出来ると思います。私はその事についても相談するため、
これから至急、西苑に行かなければなりません。夕方には帰って来ますから、
いずれのちほどまたゆっくり、あなたのご意見も伺いましょう。ではこれで失礼!」
ガチャリ! 電話は切られてしまった。》
つづく
これは メッセージ 530 (kireigotowadame さん)への返信です.