盧溝橋事件39 補佐官特務機関で報告
投稿者: kireigotowadame 投稿日時: 2010/08/06 18:32 投稿番号: [529 / 2250]
寺平忠輔著 『日本の悲劇
盧溝橋事件』 読売新聞社刊
163〜165p
《 私はここで、赤藤意兵分隊長にも会い、北京へ交渉に行くため憲兵隊の車と
サイドカーを借りることになった。
「ではただいまから出発致します。北京では最善をつくして中国側を説得し、
善い結果をもたらすよう努力しますから、こちらの方もどうぞそれまで頑張って下さい」
私は森田中佐と赤藤少佐に挨拶した。そして提供されたサイドカーに乗って、
一軒家めがけて走り出した。林耕宇は私の背後につかまって乗っていた。
王啓元は連絡の要旨を城内の金振中や吉星文に伝えるため、
ここから歩いて宛平城内に戻って行った。
私と林耕宇とは、そこで憲兵隊の自動車に乗り移った。
炎熱焼けつくような真夏の真昼、北憲第一号車は坦 (たん) 坦たる街道上を、
北京へ! 北京へ! 弾丸のように疾駆して行く。
盧溝橋駅西方の砂利取り場を長靴で歩き回って、少しばかり足を捻挫した私は、
北京特務機関で自動車から下りると、ビッコひきひきその玄関を上って行った。
そして軍刀や眼鏡や図嚢など装具もそのまま、直ちに機関長、今井武官がいる
食堂に入って行った。ちょうど食事なかばだったが機関員一同は、
一斉にビッグリしたような顔をして、私の方に会釈した。
機関長は 「ヤアご苦労ご苦労! さきほどの電話は非常によくわかった。
随分大変だったろうな。さあ装具でも解いて、食事しながらゆっくり話を聞こうか?」
「ハ、しかし、いま、盧溝橋方面の情況は非常に切迫しておりますから、
取りあえずご報告だけ先に申し上げたいと思います」
「そうか、じゃあ食事なんかどうでもいい。すぐ大応接室で話を聞こう。
今井君! それから西田さん! あなたも一緒に聞いて下さい」
私は図嚢の中からしわクチャになった盧溝橋付近十万分の地図を出し、
それをテーブルの上に広げ、色鉛筆で彼我態勢の概要をその図の上に書き込んだ。
汗がポタポタと地図の上に落ちる。
私は行動経過、戦闘概況、ならびに現地案成立の経緯を二、三十分にわたって説明した。
「いま申し上げましたようなわけで、桜井顧問はまだ宛平城内に人質となって
残っております。永定河を境として日華両軍を東西に引き離してしまう案、
これは宛平城内で私が思いついた極めて大ざっぱな案なんですが、現地の複雑した
情勢から判断しますと、少なくともこのくらいハッキリした線を引いておかないと、
両軍のいがみ合いを食い止める事は非常にむつかしいと思います。
そしてこれは桜井顧問や森田中佐はもちろん、中国側の金振中営長まで、
現地における一番の理想案として、完全に意見の一致を見たところなんですが、
機関長殿のご見解はいかがでございましょうか?
でこれがどうしてもいけないという事になれば、今度は結局、
二千の住民を宛平城外に撤退させ、日本軍は改めて城内攻撃を断行するという、
第二案に落ちて行く訳なんです。それで今からでもすぐ、
冀察側とこの交渉を開始したいと思いますが……」
機関長は暫く考え込んでいたが
「これはどうしても君のいう、第一案で押して行くより他、仕方あるまいな。
不拡大という事を前提とする以上! 今井君、君はどう思う?」
つづく
163〜165p
《 私はここで、赤藤意兵分隊長にも会い、北京へ交渉に行くため憲兵隊の車と
サイドカーを借りることになった。
「ではただいまから出発致します。北京では最善をつくして中国側を説得し、
善い結果をもたらすよう努力しますから、こちらの方もどうぞそれまで頑張って下さい」
私は森田中佐と赤藤少佐に挨拶した。そして提供されたサイドカーに乗って、
一軒家めがけて走り出した。林耕宇は私の背後につかまって乗っていた。
王啓元は連絡の要旨を城内の金振中や吉星文に伝えるため、
ここから歩いて宛平城内に戻って行った。
私と林耕宇とは、そこで憲兵隊の自動車に乗り移った。
炎熱焼けつくような真夏の真昼、北憲第一号車は坦 (たん) 坦たる街道上を、
北京へ! 北京へ! 弾丸のように疾駆して行く。
盧溝橋駅西方の砂利取り場を長靴で歩き回って、少しばかり足を捻挫した私は、
北京特務機関で自動車から下りると、ビッコひきひきその玄関を上って行った。
そして軍刀や眼鏡や図嚢など装具もそのまま、直ちに機関長、今井武官がいる
食堂に入って行った。ちょうど食事なかばだったが機関員一同は、
一斉にビッグリしたような顔をして、私の方に会釈した。
機関長は 「ヤアご苦労ご苦労! さきほどの電話は非常によくわかった。
随分大変だったろうな。さあ装具でも解いて、食事しながらゆっくり話を聞こうか?」
「ハ、しかし、いま、盧溝橋方面の情況は非常に切迫しておりますから、
取りあえずご報告だけ先に申し上げたいと思います」
「そうか、じゃあ食事なんかどうでもいい。すぐ大応接室で話を聞こう。
今井君! それから西田さん! あなたも一緒に聞いて下さい」
私は図嚢の中からしわクチャになった盧溝橋付近十万分の地図を出し、
それをテーブルの上に広げ、色鉛筆で彼我態勢の概要をその図の上に書き込んだ。
汗がポタポタと地図の上に落ちる。
私は行動経過、戦闘概況、ならびに現地案成立の経緯を二、三十分にわたって説明した。
「いま申し上げましたようなわけで、桜井顧問はまだ宛平城内に人質となって
残っております。永定河を境として日華両軍を東西に引き離してしまう案、
これは宛平城内で私が思いついた極めて大ざっぱな案なんですが、現地の複雑した
情勢から判断しますと、少なくともこのくらいハッキリした線を引いておかないと、
両軍のいがみ合いを食い止める事は非常にむつかしいと思います。
そしてこれは桜井顧問や森田中佐はもちろん、中国側の金振中営長まで、
現地における一番の理想案として、完全に意見の一致を見たところなんですが、
機関長殿のご見解はいかがでございましょうか?
でこれがどうしてもいけないという事になれば、今度は結局、
二千の住民を宛平城外に撤退させ、日本軍は改めて城内攻撃を断行するという、
第二案に落ちて行く訳なんです。それで今からでもすぐ、
冀察側とこの交渉を開始したいと思いますが……」
機関長は暫く考え込んでいたが
「これはどうしても君のいう、第一案で押して行くより他、仕方あるまいな。
不拡大という事を前提とする以上! 今井君、君はどう思う?」
つづく
これは メッセージ 528 (kireigotowadame さん)への返信です.