盧溝橋事件34 兵の離間策を提案2
投稿者: kireigotowadame 投稿日時: 2010/07/31 15:50 投稿番号: [523 / 2250]
寺平忠輔著『日本の悲劇
盧溝橋事件』読売新聞社刊
151〜152p
《・・・・
あなたのお考えもよくわかりました。
要は馮師長が撤退を命令する。そうしたらすぐにでも河の西に引きさがって行く、
とこういうご意見なんですね」 「そうです」
「じゃあこうしよう。現地代表としての双方の意見は完全に一致した。
その事を電話で馮治安師長に連絡をとるんです。
そして改めて馮師長から電話なりなんなりで命令さえ出してもらったら、
万事は解決。これなら営長としても、全然異存はないでしょう」
「結構です。早速電話で意見具申いたしましょう」
金振中は起ち上った。そして伝令兵に 「オイ! 北京の馮師長公館に電話をつなげ!
もし公館の方に不在だったら、進徳社に連絡してみい!」
伝令兵はすぐ電話にかかったが、いくらベルを鳴らしても相手が出ない。
やがてガチャリと受話器を置いて 「営長! 駄目でありますッ!
この電話は断線しとりますッ!」 「断線か! こういう大切な時に − 」
大きく嘆息した営長は 「お聞きの通りです。今断線しているそうです。
いかが致しましょうか?」 と私達の顔をのぞき込んだ。
「金営長が独断でやらん限り、結局この案は捨ててしまわんければなりませんなあ!」
私は桜井顧問に呼びかけた。「営長はとてもひとりじゃやり切らん!
もうこうなったら仕方がないから、武力をもって宛平城の中国軍を河の西に
追ッ払うんだね。それより他に方法はないさ!
しかしこの城内には随分沢山の住民がいるぜ。爺さん婆さん女子供、
これをどう処理するかだ」 「そうです。これが問題です。オイ! 王冷斉県長はどうした。
さっきから一向姿を見せんじゃないか!」
「アア、県長はさきほど、この筋向いの民家に入って休んでいました。
オイ! 伝令兵! お前行って王県長をここに呼んで来い!」
少年兵の一人が横ッ飛びに表の方へと飛び出して行った。
やがてその兵に伴われてやって来た王冷斉県長、
もともと痩せ形の鴉片吸飲患者のような感じだが、
見ると特別その顔色が悪く、まるでライスカレーさながら、とでも言いたいくらいだ。
「これはあなたのお役目上の事なんだが、いま、この宛平県城内外には、
およそどのくらいの住民がいるんですか?」
すると王冷斉は、しばらく口ごもっていたが、ようやく思い切ったみたいに
「二……二千名です」 と答えた。
桜井顧問はすこぶる濃い、しかしあまり長くもない髭をひねりながら
「その二千人を二十九軍と一緒に、殺してしまうという事は人道上の重大問題だ。
日本軍としてはそれが出来ん!」 私達二人はシンミリ考え込んだ。
「住民だけ取りあえず、西岸の長辛店 (ちょうしんてん) へでも避難させますかな。
この城内を空ッポにさせるために……」 「それより他に策はないね」
悠然、ソファーにもたれて瞑想にふけっていた桜井顧問は、この時突然、
ムックリ起き上った。そして 「営長! 第二案だ!」 と次の要求をたたきつけた。
「貴官の部隊がどうしても撤退をがえんじないというのなら、この上、
議論を続けていても意味はない。日本軍は断乎この宛平城を攻撃する。
そして二十九軍といさぎよくここで勝敗を決するのだ。ただ、そうなった場合、
罪咎 (とが) もない二千の住民を、二十九軍諸共砲弾の犠牲に供する事は、
我々人道上の立場からこれをなすに忍びない。
いまからこれら住民を、至短時間内に西岸の部落、長辛店に避難させていただきたい。
もちろん我々は貴官一人を苦しい立場に追い込み、
自分だけ逃げたり隠れたりするようなそんな、卑怯な真似はしたくない。
最後まで貴官の営本部と行動を共にし、日本軍の砲撃下に貴官と生死を共にしよう。
我々はこれだけの肚 (はら) をもってかかっているのだ。
貴官も住民に対する手配を、手っ取り早くやって頂きたい」
つづく
151〜152p
《・・・・
あなたのお考えもよくわかりました。
要は馮師長が撤退を命令する。そうしたらすぐにでも河の西に引きさがって行く、
とこういうご意見なんですね」 「そうです」
「じゃあこうしよう。現地代表としての双方の意見は完全に一致した。
その事を電話で馮治安師長に連絡をとるんです。
そして改めて馮師長から電話なりなんなりで命令さえ出してもらったら、
万事は解決。これなら営長としても、全然異存はないでしょう」
「結構です。早速電話で意見具申いたしましょう」
金振中は起ち上った。そして伝令兵に 「オイ! 北京の馮師長公館に電話をつなげ!
もし公館の方に不在だったら、進徳社に連絡してみい!」
伝令兵はすぐ電話にかかったが、いくらベルを鳴らしても相手が出ない。
やがてガチャリと受話器を置いて 「営長! 駄目でありますッ!
この電話は断線しとりますッ!」 「断線か! こういう大切な時に − 」
大きく嘆息した営長は 「お聞きの通りです。今断線しているそうです。
いかが致しましょうか?」 と私達の顔をのぞき込んだ。
「金営長が独断でやらん限り、結局この案は捨ててしまわんければなりませんなあ!」
私は桜井顧問に呼びかけた。「営長はとてもひとりじゃやり切らん!
もうこうなったら仕方がないから、武力をもって宛平城の中国軍を河の西に
追ッ払うんだね。それより他に方法はないさ!
しかしこの城内には随分沢山の住民がいるぜ。爺さん婆さん女子供、
これをどう処理するかだ」 「そうです。これが問題です。オイ! 王冷斉県長はどうした。
さっきから一向姿を見せんじゃないか!」
「アア、県長はさきほど、この筋向いの民家に入って休んでいました。
オイ! 伝令兵! お前行って王県長をここに呼んで来い!」
少年兵の一人が横ッ飛びに表の方へと飛び出して行った。
やがてその兵に伴われてやって来た王冷斉県長、
もともと痩せ形の鴉片吸飲患者のような感じだが、
見ると特別その顔色が悪く、まるでライスカレーさながら、とでも言いたいくらいだ。
「これはあなたのお役目上の事なんだが、いま、この宛平県城内外には、
およそどのくらいの住民がいるんですか?」
すると王冷斉は、しばらく口ごもっていたが、ようやく思い切ったみたいに
「二……二千名です」 と答えた。
桜井顧問はすこぶる濃い、しかしあまり長くもない髭をひねりながら
「その二千人を二十九軍と一緒に、殺してしまうという事は人道上の重大問題だ。
日本軍としてはそれが出来ん!」 私達二人はシンミリ考え込んだ。
「住民だけ取りあえず、西岸の長辛店 (ちょうしんてん) へでも避難させますかな。
この城内を空ッポにさせるために……」 「それより他に策はないね」
悠然、ソファーにもたれて瞑想にふけっていた桜井顧問は、この時突然、
ムックリ起き上った。そして 「営長! 第二案だ!」 と次の要求をたたきつけた。
「貴官の部隊がどうしても撤退をがえんじないというのなら、この上、
議論を続けていても意味はない。日本軍は断乎この宛平城を攻撃する。
そして二十九軍といさぎよくここで勝敗を決するのだ。ただ、そうなった場合、
罪咎 (とが) もない二千の住民を、二十九軍諸共砲弾の犠牲に供する事は、
我々人道上の立場からこれをなすに忍びない。
いまからこれら住民を、至短時間内に西岸の部落、長辛店に避難させていただきたい。
もちろん我々は貴官一人を苦しい立場に追い込み、
自分だけ逃げたり隠れたりするようなそんな、卑怯な真似はしたくない。
最後まで貴官の営本部と行動を共にし、日本軍の砲撃下に貴官と生死を共にしよう。
我々はこれだけの肚 (はら) をもってかかっているのだ。
貴官も住民に対する手配を、手っ取り早くやって頂きたい」
つづく
これは メッセージ 522 (kireigotowadame さん)への返信です.