1939年 ノモンハン事件16 タムスク爆撃2
投稿者: kireigotowadame 投稿日時: 2012/11/22 18:56 投稿番号: [2066 / 2250]
辻正信著
「ノモンハン秘史」
毎日ワンズ
149〜151p
《 すっかり見とれているうちに思わず我に返った。
操縦席には若い少尉が身動きもしないで、操縦桿を握り、
爆撃手は双眼鏡で地上を凝視し、機銃手は上空を鷹のように睨んでいる。
少尉の肩をたたいた。
「おい……墜ちる……墜ちる、敵が墜ちるぞ」
興奮の余り、少尉に話しかけた。
だがこの少尉は振り向きもしないで、 「敵か、味方かわかりません」
つっけんどんに答えた。
おー、そうか、これが確かに空中勤務者の心理であろう。
いつか我が身に降りかかる運命を胸に浮かべて、
墜ち行く敵に一滴の涙をそそいでいるのではなかろうか。
たちまち機内にケタタマしい機関銃声が起こった。
窓から顔を出して上空を覗くと、
ソ連の戦闘機が二機、三機、後方の上空より我が搭乗機に向かって、
頭をぶつけるかと思われるほど迫っては体を交わしている。
代わる代わる反復する攻撃であるが、幸か不幸か敵の撃ち出す銃声は、
我がエンジンの爆音に打ち消されて、少しも聞こえない。
ただ、我の撃ち出す機関銃声だけが勇ましく聞こえる。
アーッという声と共に、隣り合わせに坐っていた准尉が右腕を撃ち貫かれた。
血だらけになって伏せる。続いて二発、三発、胴体に命中したらしい。
高い金属音が心臓まで響くようである。冷汗が流れる。
爆撃を終わって帰路についた編隊は、いま、数十機の敵戦闘機に襲われたのである。
たちまち後方上空に待機していたらしい我が戦闘機群が敵戦闘機に挑みかかり、
間近において激しい空中戦を展開した。
このときばかりは墜落するものは明らかに敵機であることが確認された。
この戦闘に見とれているうちに、突然機体が周囲の空気と共に、
上空に跳ね上げられるような震動を感じた。
直下を見下ろすと、古いボロ綿をちぎって投げ出したかと思われるような、
一塊の砲煙が、あちらにもこちらにも、縁日の
「しゃぼん玉」
のように上がってきた。
地上から撃ち出した敵高射砲の弾幕射撃であった。
いま少し高度を下げるか敵が射程を延ばしたら全弾が命中しそうである。
飛行機の速度が遅くて堪らないような気持ちがする。尻がムズ痒い。
これらの感覚は数分、多くも十数分の短い時間であった。
大編隊はついに崩されないで、出発当時の隊形を保ちながら、再び満領上空に入った。
やれやれ助かった。見事な戦果であった。
夢のような感慨に耽
(ふけ)
っているとき、宝蔵寺少将搭乗機から無線電話があった。
「爆撃成功せり」
すぐに答えた。
「御成功を祝す」
少将の太い髭の顔が、隣りの機の窓から見える。
ニコニコ笑いながら、大きな掌でしきりに窓を撫で回している。
重任を果たした喜びの顔であった。》
つづく
これは メッセージ 2064 (kir**gotowa**me さん)への返信です.
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