紫陽花亭日乗

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刺客列傳 第五話 「荊軻」 承の段 4 

投稿者: ajisai110701 投稿日時: 2011/08/08 00:42 投稿番号: [280 / 735]
荊軻曰。微太子言、臣願謁之。今行而毋信、則秦未可親也。
夫樊將軍、秦王購之金千斤、邑萬家。
誠得樊將軍首、與燕督亢之地圖、奉獻秦王、秦王必説見臣。臣乃得有以報。
太子曰。樊將軍窮困來歸丹。丹不忍、以己之私、而傷長者之意。願足下更慮之。

荊軻曰く、太子の言微(な)くも、臣これを謁(つ)ぐるを願へり。
今行くとも信毋(な)くば、則ち秦、未だ親(ちか)づく可からざらん。
夫(そ)れ樊將軍は、秦王これを金千斤、邑萬家に購(あがな)ふ。
誠(も)し樊將軍の首と、燕の督亢(とくこう)の地圖とを得て、
奉りて秦王に獻ずれば、秦王必ず説(よろこ)びて臣に見(まみ)えん。
臣乃(すなは)ち以て報(むく)ゆる有るを得ん。
太子曰く、樊將軍窮困して來り丹に歸す。
丹、己れの私を以てして、長者の意を傷(そこな)うに忍びず。
願はくは足下、更にこれを慮(おも)んばかれ。


荊軻は言った。

「仮に太子のお言葉がなくとも、わたしからこのことについて
申し上げようと思っていたのです。
今秦に行ったとしても証拠がなければ、秦王に接近することはできないでしょう。
そもそも樊將軍(太子丹が匿っている燕に亡命してきた秦の將軍樊於期)
には、秦王は金千斤、一万戸ある土地を報奨にかけています。
もし樊將軍の首と、燕の督亢(とくこう)の地図とを手にすることができて、
奉つり秦王に献上すれば、秦王は必ず喜んでわたしを引見することでしょう。
そうすれば、わたくしめはそこでご恩返しができます」


太子が言った。

「樊將軍は身の置きどころがなくせっぱつまってこの燕にやって来て
この丹に頼ったのです。
丹は、自分自身の非常に私的なことのために、尊敬する樊將軍の心を
傷つけることはできません。
どうか荊卿、もう一度よくご検討いただけないものでしょうか」


★地図を献上するということは、
その地図に描いてある土地を献上するということです。

幕末に有名なシーボルト事件というのがありました。
当時の日本では、国外に日本地図を持ち出すことは禁止されていました
が、その根底には地図に対するこういった思想があったものと思われます。

『日本書紀』にも、はるばる種子島から地図と土地の産物を持って
朝貢にやってきたという記事が出ています。


つづく

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