紫陽花亭日乗

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刺客列傳 第五話 「荊軻」 承の段 3 

投稿者: ajisai110701 投稿日時: 2011/08/07 02:25 投稿番号: [278 / 735]
久之、荊軻曰。此國之大事也。臣駑下、恐不足任使。
太子前頓首、固請毋譲、然後許諾。
於是尊荊卿爲上卿、舎上舎。太子日造門下、供太牢、具異物、
輭進車騎美女、恣荊軻所欲、以順適其意。
久之、荊軻未有行意。
秦將王翦破趙虜趙王、盡収入其地、進兵北略地、至燕南界。
太子丹恐懼、乃請荊軻曰。秦兵旦暮渡易水、則雖欲長侍足下、豈可得哉。


これを久しうして、荊軻曰く、此の國の大事なり。
臣駑下(どか)にして、任使するに足らざらんことを恐る。
太子前(すす)みて頓首し、固く請ふ譲る毋(な)かれ、と。然る後許諾す。
是に於いて荊卿を尊んで上卿と爲し、上舎に舎(やど)す。
太子、日々門下に造(いた)り、太牢(たいろう)を供し、異物を具し、
輭(まま)車騎美女を進め、荊軻の欲する所を恣(ほしいまま)にせしめ、
以て其の意に適うに順う。
これを久しうするも、荊軻未だ行く意有らず。
秦の將・王翦、趙を破りて趙王を虜にし、盡く其の地を収め入れ、
兵を進めて北のかた地を略し、燕の南界に至る。
太子丹、恐懼し、乃ち荊軻に請うて曰く、秦の兵、旦暮易水を渡らば、
則ち長(とこしな)へに足下に侍せんと欲すと雖も、豈に得可けんや。


しばしの沈黙の後、荊軻は言った。
「これは國の大事です。
わたしは凡庸で能力に劣り、とてもそのような大役はつとまらないでしょう」

太子は前に進み出て頓首し、
「どうしてもお願いしたい。どうか辞退しないでいただきたい」と言った。

それで荊軻は承諾した。

それからというもの、太子丹は荊卿を尊んで上卿となし、
上等な宿舎に住まわせた。
太子は、連日荊軻のもとにやって来て、太牢(たいろう)を供し、珍しい品物
を備え、ときには車騎、美女を勧め、荊軻のしたいままに好き放題をさせ、
荊軻の気持ちに適(かな)うように従った。

しかししばらく経っても、荊軻はいっかな腰をあげようとしなかった。

その間にも秦の將軍・王翦(おうせん)が趙を破り、趙王を虜(とりこ)にし、
趙の領土をすべて収奪し秦のものとして組み入れ、北方に進軍して
行くさきざきで地を略定し、燕との南の境界まで至った。

太子丹は恐れいらいらして、やむなく荊軻に頼んだ。

「秦軍は、今にも易水を渡ろうとしています。そうなれば、いついつまでも
あなたにお仕えしたいと思っていても、どうしてそれができましょうや」



つづく

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