「捕虜の供述場面より」
投稿者: hangyosyufu 投稿日時: 2005/06/07 02:17 投稿番号: [5892 / 41162]
(昭和十三年五月十一日)
衛兵所の柱に捕虜が一人繋がれている。慓悍な顔付をしている。通訳が色々と聞いている。
誰やらに似てるなと思ったら、ふいとAの顔が浮んだ。色が少し黒いがそっくりだ。
ぎろぎろした鋭い眼光だが、声は低く、おどおどしながら答えている。
三十二歳で、姓名は雷国東(らいこくとう)、百二十三師所属で、生れは湖南省、上組戦に参加したるも鉄砲をくれなかった。
給与、米一日一斤、副食物はくれない。給料、一カ月一元八十仙、多くも二元三十仙位、募集広告には八元三十仙とあったが、食料、服料等を差引かれ、煙草代もない。
板橋集(はんきょうしゅう)北方の小隆集(しょうりゅうしゅう)の戦闘で、気が附いたら味方は皆逃げてしまって、自分一人残っておった。小銃の外拳銃も持っていた由。革製の財布には、中に穴のあいた一厘銭と、骰子(さいころ)が二つと、一通の手紙とが入っている。 (麦と兵隊
150頁)(KO生、堺市)
(宮崎正弘のコメント)戦後へんてこな戦争文学が山となって、五味川純平、野間宏ほか。
こんにちは誰も読まない作品を書いていました。
石川達三や大岡昇平の作品も、どことなくなじめない戦争の描写をしており、
対照的に火野さんは実にのびやかな、真実の風景描写で、前者のひとたちと天地の開きがありますね。
ともかく火野葦平『麦と兵隊』は名作です。
これは メッセージ 5891 (hangyosyufu さん)への返信です.
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