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12月11日 船舶に攻撃命令を出す

投稿者: kireigotowadame 投稿日時: 2011/08/03 18:29 投稿番号: [926 / 2250]
児島襄著   『日中戦争4』   206〜208p


《 第六師団長谷寿夫中将は、安徳門西北方高地に戦闘司令所を進出させ、
戦況をみまもっていた。

中将も幕僚たちも、胸中には焦慮に似た戦況進展への希望が充満するためか、
誰も一言もいわずに佇立   (ちょりつ)   していた。

第十軍司令官柳川平助中将が、前ぶれもなく来訪したのは、午後二時すぎである。

勝気で闘志に富む柳川中将も、また、口にはださないが、
日本国内の*騒ぎに刺戟   (しげき)   され、じりじりした心境にさそわれていた。



谷中将から情況説明をうけるうち、後方の砲兵隊観測所から
「敵船逃走中」   の叫びがきこえ、左手の揚子江を遡航する汽船五隻がみえた。

すかさず砲撃が命令されたが、野砲の射程がみじかく、砲弾は江上にとどかない。

第六師団参謀長下野一霍大佐が、蕪湖に位置する野戦重砲兵第十三連隊
(橋本欣五郎大佐)   による重砲射撃を進言した。

だが、間にあわず、第十軍司令官柳川中将は、午後六時、国崎支隊に次のように下令した。


「南京ノ攻略   目睫 (もくしょう) ノ間ニ迫リ、敵ノ退路ハ 揚子江   及   浦口方面ノ

二箇所ニ   限定セラル。   国崎支隊ハ   昼夜兼行、最モ速 (すみやか) ニ 浦口ニ突進シ、

敵ノ退路ヲ遮断シ   且ツ   揚子江ヲ退却スル   敵汽船ヲ撃滅スベシ」


  ついで、蕪湖地区の第十八師団にも!


「敵ハ……汽船ニ依リ……上流ニ退却中ナリ。

尚 今後引キ続キ   退却スルモノト   判断セラル。

第十八師団ハ、蕪湖付近ヲ 通過スル船ハ   国籍ノ 如何ヲ 問ハズ   撃滅スベシ」



この   「国籍ノ如何ヲ間ハズ」   命令は、乱暴である。

第三国船が中国兵を輸送していることを確認したうえでの攻撃ならともかく、
そうでなければ国際法違反であり、その国にたいする攻撃に通ずる。

現に、これまでも日本側は、 「日中戦争」   における列国の権益と人命尊重に
ついて格別の注意を各部隊に厳達している‥‥‥。

第十軍司令官柳川中将としては、しかし、汽船の遡航イコール中国軍の退却とみなし、
その命令の語調が告げるように、ひたすら南京城攻略と中国軍主力繊滅を

督励する一念に燃えていたのである。



   −   だが、

この日も南京城は陥落せず、すでに中山門外にせまった第九師団をのぞけば、
他の第十六、第百十四、第六師団は、まだ城壁にたどりつけなかった。


この夜、南京の首都衛戍司令官唐生智は、第八十三軍第一五四師(巫剣雄)を
第八十八師に増加して   「陣地死守」   を下令した。


  第六師団長谷中将も、あらためて各連隊の攻撃部署を指示した。

  ▽第十三連隊=中華門、

  ▽第四十七連隊=中華門と西南角の間、

  ▽第二十三連隊=西南角、

  総攻撃の下令にほかならず、他の師団でも、同様の命令が示達され、
部隊はいずれも幅三、四十メートルの水濠の渡河準備、

高さ二十メートル余の城壁をのぼるハシゴの用意をいそいだ。》



*   「日本国内の騒ぎ」 とは、朝日新聞が早まって 「南京陥落」 の記事を出した事。
   実際はまだ陥落していないので、現場の兵士を焦らさせる。

*   この汽船は外国人の上流避難船だったのだが、
   この勘違いによる攻撃命令が翌日国際問題を引き起こすことになる。

注   佇立   チョリツ   たたずむこと。
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