7月29日 通州虐殺事件4 近水楼2
投稿者: kireigotowadame 投稿日時: 2011/01/01 17:14 投稿番号: [685 / 2250]
寺平忠輔著 『日本の悲劇
盧溝橋事件』 読売新聞社刊
387〜389p
《 やがて表の方で、 「ピリリーッ、ピリッ!」
という呼笛の音が聞えました。
学生団はそれを合図にドヤドヤッと家の中にとび込んで来ました。
屋根裏の小窓からのぞいていると、彼等は椅子、机、お客さんの靴、置時計など、
手当り次第に掠奪を始めているのが、手にとるようによくわかります。
突然、玄関の所で、二、三発の銃声と共に、けたたましい女の悲鳴が起りました。
これは玄関脇の押入れに隠れていた女中達が、拳銃弾の洗礼をうけ、
非業の最期をとげた時の悲痛な叫びだったのです。
学生団は土足のまま、とうとう二階まで駆け上って来ました。
襖や板戸を蹴飛ばす音、すぐ間近で発射する拳銃の響、
最初のうちは単なる掠奪だと思っていたのですが、先程のボーイの言葉といい、
今また玄関口での女の悲鳴といい、それやこれやを思い合わせ
−
彼等の目的とするところは、日本人の虐殺なんだ
−
そう感付いた時、にわかに襟元から三斗の冷水を浴せかけられたような気持がしました。
我々の運命はもはや旦夕に迫っているんだ。お互いはいわず語らず、ただ、
わずかに目くばせしながら、息をこらして事の成り行きを静観し続けました。
辛い、学生達は私共が天井裏に隠れている事には、とうとう気がつかなかったらしく、
やがて
「さあ、取るだけ取ったらみんな下へ降りろ!」
声諸共、ドカドカ階段を降りて表の方に行ってしまいました。
−
やれ安心!
−
息つく暇もなく、今度は保安隊が入れ違いに入って来ました。
一難去ってまた一難、こいつらは冀東長官殷汝耕の衛隊なのです。
彼等はスッカラカンに掠奪された部屋の中に、まだ何か目星しいものが
残ってやしないかと、眼を皿のようにしてあちこち捜し回りました。
そしてだんだん私達の隠れている方に近づいて来ました。この時の気持といったら、
十一人が十一人、全く生きた心地もせず、ただただ神仏にすがりたい気持で一杯でした。
−
南無三
−
しかしその時はもうおそかったのです。保安隊の隊長らしいのが、
私達の屋根裏の入り口を見付け出してしまいました。
何とかッ!
と叫ぶと、部下の保安隊が五、六名、バタバタッと彼の周囲に駆け
集まって来ました。隊長は、グッと首を突き伸ばし、私共の方に向って呼びかけました。
「おい君達、君達の生命は確実に保護して上げる。
保護する代りに持っている金は全部ここに出し給え!」
否といえばすぐにでも発射せんばかりに、隊長の右手には大型拳銃が握られているのです。
一同は無言のまま、ゴソゴソやって蟇口や財布の中から、
しわくちゃになった一元札や、紫色の判をベタベタ押した五元紙幣を
取り出しました。彼等は金が欲しいばかりに、
私達一人一人に手を貸して、屋根裏から下に助け降してくれました。》
つづく
これは メッセージ 684 (kireigotowadame さん)への返信です.
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