7月26日 広部大隊救出行動3
投稿者: kireigotowadame 投稿日時: 2010/12/08 18:32 投稿番号: [660 / 2250]
寺平忠輔著 『日本の悲劇
盧溝橋事件』 読売新聞社刊
335〜337p
《 笠井顧問と私は伝令の兵に案内されて、埃のボコボコした北綫閣の通りを、
北に向って歩き始めた。 銃剣が至るところの闇にギラリギラリ光っている。
やがて伝令が 「この土塀の中が大隊本部です」 と左側の大きな家を指差した。
あたりは木立に囲まれて、その木の根方でも歩哨が厳めしく警戒していた。
奥の方から、ザワザワ人の出て来る気配がする。 「大隊長殿はおられませんか」 と
伝令がたずねた。 「ここにおられるぞ」
「今、軍使の方が見えて、大隊長殿を探しておられます」 「何? 軍使?」
そういって長身の広部大隊長が一歩前へのり出した。
天から降ったか地から湧いたか、この敵軍重囲の真ッ唯中に、突然現われた背広姿の
軍使の一行。広部大隊長にはそれが極めて奇怪な存在として映じたに違いない。
まるで狐につままれたような感じだったと想像される。懐中電燈を照らして、
私の頭の上から足の先までジロリジロリ眺めながらいった。
「大隊を公使館区域まで誘導して下さるというんですか?
いったいあなた方は、大隊の現在の情況がおわかりになっているんですか?」
「概略は承知しています」
「大隊は今、腹背に敵をうけているのです。
そして城外部隊は今夜二時半、城門に向って攻撃の火蓋を切る事が、
先程電話でわかってきました。
それで大隊は、城外部隊の攻撃に先立って広安門を夜襲するため、
今から出かけるところなんです」
「それはこのさい、是非思い止まっていただかなければなりません」
「イヤ、私の大隊としては、友軍が広安門を攻撃するという以上、
事前に城壁の一角を占領して、友軍の攻撃を容易ならしめる事が、
戦術上当然採るべき手段だと考えます。今晩は辛いにしてこのひどい風、
さきほどもここにいる高須大尉から意見具申がありまして、
この〝神風〟を利用して広安門内側の民家に火を放ったら、確実にあの城内に燃え上って、
夜襲成功の可能性は多分にあるというんです。これをいまさら中止するという事は……」
「それについて申し上げますが、城外部隊が広安門を攻撃する理由はいったい何です。
大隊が城内と城外とに分断され、城内部隊が敵中に孤立しているから、
これを救出するというのがその目的なんじゃありませんか。
だから大隊が公使館区域に入るという、最初の目的が達成されたら、
城外部隊は何も苦しんで城門攻撃なんかしなくたって済む訳です。
これについては、さきほど特務機関長からも電話があって、城外部隊の攻撃を阻止
する事は、責任をもって豊台の旅団司令部に連絡をとるから、との事でございました。
それに北京城内では、居留民の引き揚げもまだ終っていない状態なんです。
今、ここで戦闘をひき起したら、二千の居留民は城内到るところで虐殺されて
しまうでしょう。もともとが居留民保護という任務を持っておられる大隊です。
その大隊の行動に端を発し、かえって居留民虐殺の動機がつくられたとしたら、
それこそ本末転倒、逆効果です。むしろ最初から入城しない方がまだよかった、
という事になりはしませんか? 何といってもこのさい、任務が第一です。
この点、よくよくお考えになっていただきたいと思います」》
つづく
335〜337p
《 笠井顧問と私は伝令の兵に案内されて、埃のボコボコした北綫閣の通りを、
北に向って歩き始めた。 銃剣が至るところの闇にギラリギラリ光っている。
やがて伝令が 「この土塀の中が大隊本部です」 と左側の大きな家を指差した。
あたりは木立に囲まれて、その木の根方でも歩哨が厳めしく警戒していた。
奥の方から、ザワザワ人の出て来る気配がする。 「大隊長殿はおられませんか」 と
伝令がたずねた。 「ここにおられるぞ」
「今、軍使の方が見えて、大隊長殿を探しておられます」 「何? 軍使?」
そういって長身の広部大隊長が一歩前へのり出した。
天から降ったか地から湧いたか、この敵軍重囲の真ッ唯中に、突然現われた背広姿の
軍使の一行。広部大隊長にはそれが極めて奇怪な存在として映じたに違いない。
まるで狐につままれたような感じだったと想像される。懐中電燈を照らして、
私の頭の上から足の先までジロリジロリ眺めながらいった。
「大隊を公使館区域まで誘導して下さるというんですか?
いったいあなた方は、大隊の現在の情況がおわかりになっているんですか?」
「概略は承知しています」
「大隊は今、腹背に敵をうけているのです。
そして城外部隊は今夜二時半、城門に向って攻撃の火蓋を切る事が、
先程電話でわかってきました。
それで大隊は、城外部隊の攻撃に先立って広安門を夜襲するため、
今から出かけるところなんです」
「それはこのさい、是非思い止まっていただかなければなりません」
「イヤ、私の大隊としては、友軍が広安門を攻撃するという以上、
事前に城壁の一角を占領して、友軍の攻撃を容易ならしめる事が、
戦術上当然採るべき手段だと考えます。今晩は辛いにしてこのひどい風、
さきほどもここにいる高須大尉から意見具申がありまして、
この〝神風〟を利用して広安門内側の民家に火を放ったら、確実にあの城内に燃え上って、
夜襲成功の可能性は多分にあるというんです。これをいまさら中止するという事は……」
「それについて申し上げますが、城外部隊が広安門を攻撃する理由はいったい何です。
大隊が城内と城外とに分断され、城内部隊が敵中に孤立しているから、
これを救出するというのがその目的なんじゃありませんか。
だから大隊が公使館区域に入るという、最初の目的が達成されたら、
城外部隊は何も苦しんで城門攻撃なんかしなくたって済む訳です。
これについては、さきほど特務機関長からも電話があって、城外部隊の攻撃を阻止
する事は、責任をもって豊台の旅団司令部に連絡をとるから、との事でございました。
それに北京城内では、居留民の引き揚げもまだ終っていない状態なんです。
今、ここで戦闘をひき起したら、二千の居留民は城内到るところで虐殺されて
しまうでしょう。もともとが居留民保護という任務を持っておられる大隊です。
その大隊の行動に端を発し、かえって居留民虐殺の動機がつくられたとしたら、
それこそ本末転倒、逆効果です。むしろ最初から入城しない方がまだよかった、
という事になりはしませんか? 何といってもこのさい、任務が第一です。
この点、よくよくお考えになっていただきたいと思います」》
つづく
これは メッセージ 659 (kireigotowadame さん)への返信です.