盧溝橋事件66 竜王廟の夜襲2
投稿者: kireigotowadame 投稿日時: 2010/09/17 18:30 投稿番号: [571 / 2250]
寺平忠輔著 『日本の悲劇
盧溝橋事件』 読売新聞社刊
227〜229p
《 大隊はいままで、八宝山方向に対して警戒配備についていたが、その隊形をそのまま、
右より渋江第一、乃美第三の両中隊を第一線、古川第二中隊を第二線とし、
本部はその中央に位置し、日没と共に竜王廟に向って発進を起した。
出発に当って大隊長は、本部書記の松浦軍曹を伝令として世良小隊に出し
「大隊主力は、今夜竜王廟正面の敵に対して夜襲を決行する。
貴小隊は現在地に停止、そして絶対同志射ちの混乱をひき起さないよう注意せよ。
夜襲成功後は貴小隊の正面に引揚げて行く予定、
特に大隊主力に対して連絡を緊密にせよ」 と伝達させた。
大隊は原ッパの真ん中、一本柳付近から、
大きく斜め左に方向を変換して堤防に正対し、
大隊左翼の目標を竜王廟にとり、これより上流、堤防上の敵を攻撃するよう
夜間戦闘を準備した。堤防までの距離はタップリ千メートルはある。
視界がだんだん薄暗くなってきた。前方百メートルくらい見透せるのが精々である。
それが刻々暗さを加えてきて、大隊が濃密散兵の隊形で一本柳を出発した時は、
もう足元だけしかわからぬような真ッ暗闇になっていた。
時々、堤防上からパーン!パーンと緩徐な銃声が起って来る。
中国軍が索敵の目的をもってブッ放している射撃らしい。
第一線両中隊はグングン突き進んで行った。
大隊本部との隔たりが、大分開いたようである。
本部としてもまた、第一線両中隊の現在地がハッキリとは掴めていない。
大隊長のまわりには、大隊副官代理の因幡中尉、それに伝令、書記、
連絡兵等合せて十二、三人がいた。
大隊長は因幡副官をふり返って 「オイ! 因幡!どうも拙 (まず) い夜襲に
なってしまいそうだなあ!」 とつぶやいた。
午後九時近くである。鼻をつままれてもわからぬ闇の中で、
敵の射撃が俄然激しさを加えて来た。
敵弾はビュッ! ビュッ!みんな頭の上を飛び越して行く。
銃声や敵火の閃光から判断すると、
正面の敵兵力が二、三百ある事はまず動かぬところである。
パンパンいう音がまるで豆でも炒っているみたいだ。
因幡副官が大隊長の耳元にささやいた。
「大隊長殿!銃声がにわかに激しくなってきました。
第一線はもう突っ込んだんじゃないでしょうかー」
「ウム、でもまだ百五十メートルくらいあるだろうぜ。
歩度を伸ばしてもう少し前進してみよう」
それから三十メートルばかり進んだころ、敵火はいよいよ狂気のように激しくなってきた。
− 第一線、いよいよ突っ込んで行ったな。− そう直感した大隊長は、
軍刀頭上に撮りかぶりざま、大隊本部に「突っ込めッ!」と命令した。
長身の大隊長が最先頭を走った。ところが走っても走っても、一向堤防に到着しない。
これは後に調べてみてわかった事であるが、突撃発起の地点から敵線までの距離が、
何と二百五十メートルもあったのだから、敵と格闘するより先に、
まず息切れの方で参ってしまう。
それともう一つ、陣地間近く迫ったところ、いつの間に掘ったか、
幅約三メートルという一連の外壕が埋防の手前に横わっていて、
昨日の雨水がそれに溜り一大障害を形造っている。
大隊長以下、それら障害を意に介せず一気に埋防上に駆け上って行った。
勢い込んだ木原少佐は、当面の中国兵に袈裟がけの一刀を浴せかけた。
剣道五段、腕には十分の自信があったが、
この初太刀あいにく敵の弾帯に斬りつけたため、カチンと音がしてハネ返されてしまった。
大隊長はやにわに軍刀の柄を両手で握りしめ、新たな敵に向って斬り込んで行った。》
つづく
227〜229p
《 大隊はいままで、八宝山方向に対して警戒配備についていたが、その隊形をそのまま、
右より渋江第一、乃美第三の両中隊を第一線、古川第二中隊を第二線とし、
本部はその中央に位置し、日没と共に竜王廟に向って発進を起した。
出発に当って大隊長は、本部書記の松浦軍曹を伝令として世良小隊に出し
「大隊主力は、今夜竜王廟正面の敵に対して夜襲を決行する。
貴小隊は現在地に停止、そして絶対同志射ちの混乱をひき起さないよう注意せよ。
夜襲成功後は貴小隊の正面に引揚げて行く予定、
特に大隊主力に対して連絡を緊密にせよ」 と伝達させた。
大隊は原ッパの真ん中、一本柳付近から、
大きく斜め左に方向を変換して堤防に正対し、
大隊左翼の目標を竜王廟にとり、これより上流、堤防上の敵を攻撃するよう
夜間戦闘を準備した。堤防までの距離はタップリ千メートルはある。
視界がだんだん薄暗くなってきた。前方百メートルくらい見透せるのが精々である。
それが刻々暗さを加えてきて、大隊が濃密散兵の隊形で一本柳を出発した時は、
もう足元だけしかわからぬような真ッ暗闇になっていた。
時々、堤防上からパーン!パーンと緩徐な銃声が起って来る。
中国軍が索敵の目的をもってブッ放している射撃らしい。
第一線両中隊はグングン突き進んで行った。
大隊本部との隔たりが、大分開いたようである。
本部としてもまた、第一線両中隊の現在地がハッキリとは掴めていない。
大隊長のまわりには、大隊副官代理の因幡中尉、それに伝令、書記、
連絡兵等合せて十二、三人がいた。
大隊長は因幡副官をふり返って 「オイ! 因幡!どうも拙 (まず) い夜襲に
なってしまいそうだなあ!」 とつぶやいた。
午後九時近くである。鼻をつままれてもわからぬ闇の中で、
敵の射撃が俄然激しさを加えて来た。
敵弾はビュッ! ビュッ!みんな頭の上を飛び越して行く。
銃声や敵火の閃光から判断すると、
正面の敵兵力が二、三百ある事はまず動かぬところである。
パンパンいう音がまるで豆でも炒っているみたいだ。
因幡副官が大隊長の耳元にささやいた。
「大隊長殿!銃声がにわかに激しくなってきました。
第一線はもう突っ込んだんじゃないでしょうかー」
「ウム、でもまだ百五十メートルくらいあるだろうぜ。
歩度を伸ばしてもう少し前進してみよう」
それから三十メートルばかり進んだころ、敵火はいよいよ狂気のように激しくなってきた。
− 第一線、いよいよ突っ込んで行ったな。− そう直感した大隊長は、
軍刀頭上に撮りかぶりざま、大隊本部に「突っ込めッ!」と命令した。
長身の大隊長が最先頭を走った。ところが走っても走っても、一向堤防に到着しない。
これは後に調べてみてわかった事であるが、突撃発起の地点から敵線までの距離が、
何と二百五十メートルもあったのだから、敵と格闘するより先に、
まず息切れの方で参ってしまう。
それともう一つ、陣地間近く迫ったところ、いつの間に掘ったか、
幅約三メートルという一連の外壕が埋防の手前に横わっていて、
昨日の雨水がそれに溜り一大障害を形造っている。
大隊長以下、それら障害を意に介せず一気に埋防上に駆け上って行った。
勢い込んだ木原少佐は、当面の中国兵に袈裟がけの一刀を浴せかけた。
剣道五段、腕には十分の自信があったが、
この初太刀あいにく敵の弾帯に斬りつけたため、カチンと音がしてハネ返されてしまった。
大隊長はやにわに軍刀の柄を両手で握りしめ、新たな敵に向って斬り込んで行った。》
つづく
これは メッセージ 570 (kireigotowadame さん)への返信です.