盧溝橋事件31桜井顧問射撃を制止する2
投稿者: kireigotowadame 投稿日時: 2010/07/27 18:21 投稿番号: [519 / 2250]
寺平忠輔著 『日本の悲劇
盧溝橋事件』 読売新聞社刊
141〜142p
《 射撃抑制に狂奔している時、俄然! 城壁西北角で猛烈な戦闘が巻き起った。
中国兵は白旗の陰から、城外の日本軍に猛射を浴びせるし、
日本軍の歩兵砲弾はまた城壁上に、土煙りをあげて炸裂し始めた。
彼我の叫喚怒号が銃声砲声と相錯綜し、凄壮の極みである。
日本軍は長豊支線のガードを越え、城壁に向って殺到して来つつある。
先頭に長刀を閃 (ひら) めかしているのが鹿内小隊長だ。
桜井顧問のおもては怒りに満ちていた。彼は大声を張りあげて弾雨の中をどなり歩いた。
「射撃中止!射撃中止! 秦徳純副軍長の命令だ!」
中国軍の若い将校が、拳銃を右手に桜井顧問の前へにじり寄って来た。
そしてさも憎々しげに 「なに? なにが副軍長の命令だ!
俺の部隊はこの通り日本軍から射たれているんだぞ!
それを副軍長の命令だなどといつわって、一方的に射たさんという法がどこにある!」
彼は左の拳でボンと自分の胸をたたくと、更に昂然たる態度でまくし立てた。
「俺達の胸には、誓死救国の真ッ赤な血が流れているんだ。
ここは顧問なんかの出る幕じゃない。貴様らが副軍長の命令だとかなんとか、
勝手な嘘をホザくもんだから、こんな戦争が起ってしまったんじゃないか!」
早口にそれだけいってのけると、桜井顧問の前にペッと唾をはいた。
金振中がきっとこの将校を睨みすえた。そして憤怒の形相も物凄く、大喝一声
「黙れッ! 貴様は俺の命令に服従せんかッ! 射つなといったら射っちゃいかんッ!
言い訳なんか聴きたくないッ」 金振中の熱誠ほとばしる努力が功を奏し、
城壁上一帯からする射撃は、次第に鎮静していった。
桜井顧問は金振中営長の、毅然たる態度につくづく感心させられたようだった。
戦闘はどうやら一時小康を得ているらしい。
一行はふたたび県政府の客庁に戻って来た。金振中は部下に囲まれ、
客庁の真ん中に立ったまま、引っ切りなしにテキパキ命令を下していた。
「チェコワンリェ! チェコワンリェ!」(ご免下さい!) 運転手が大声でそう叫びながら、
大きなお膳を両手で抱え、警戒兵達を押分け、その命令下達の真ん中に割り込んで来た。
お膳には湯気の立った茶碗が幾つものっていた。
「サア来ました、来ました。大変お待たせ致しました」 と
林耕宇が卓上の地図や白旗などを片付け始めた。おなかをすかせた一同のため、
中国側が用意した簡単な朝食だった。
桜井顧問も私も、林耕宇も王冷斉も、そして金振中や周永業も、一斉に箸をとった。
「呉越同舟、朝餉の膳とは愉快だな! ねえ、そうだろう! 金営長!」
金振中もそれを聞いて朗らかに笑った。
フウフウ吹きながら中をかき回す。スープに浮いた卵の黄味が破れてパッと散った。
私は 「これがこの世の食い納めにならんとも限らんからなあ!」
という桜井顧問の言葉をしみじみと味わってみた。
警戒兵達は拳銃を握ったまま、まだ我々の一挙一動を見守っている。》
つづく
141〜142p
《 射撃抑制に狂奔している時、俄然! 城壁西北角で猛烈な戦闘が巻き起った。
中国兵は白旗の陰から、城外の日本軍に猛射を浴びせるし、
日本軍の歩兵砲弾はまた城壁上に、土煙りをあげて炸裂し始めた。
彼我の叫喚怒号が銃声砲声と相錯綜し、凄壮の極みである。
日本軍は長豊支線のガードを越え、城壁に向って殺到して来つつある。
先頭に長刀を閃 (ひら) めかしているのが鹿内小隊長だ。
桜井顧問のおもては怒りに満ちていた。彼は大声を張りあげて弾雨の中をどなり歩いた。
「射撃中止!射撃中止! 秦徳純副軍長の命令だ!」
中国軍の若い将校が、拳銃を右手に桜井顧問の前へにじり寄って来た。
そしてさも憎々しげに 「なに? なにが副軍長の命令だ!
俺の部隊はこの通り日本軍から射たれているんだぞ!
それを副軍長の命令だなどといつわって、一方的に射たさんという法がどこにある!」
彼は左の拳でボンと自分の胸をたたくと、更に昂然たる態度でまくし立てた。
「俺達の胸には、誓死救国の真ッ赤な血が流れているんだ。
ここは顧問なんかの出る幕じゃない。貴様らが副軍長の命令だとかなんとか、
勝手な嘘をホザくもんだから、こんな戦争が起ってしまったんじゃないか!」
早口にそれだけいってのけると、桜井顧問の前にペッと唾をはいた。
金振中がきっとこの将校を睨みすえた。そして憤怒の形相も物凄く、大喝一声
「黙れッ! 貴様は俺の命令に服従せんかッ! 射つなといったら射っちゃいかんッ!
言い訳なんか聴きたくないッ」 金振中の熱誠ほとばしる努力が功を奏し、
城壁上一帯からする射撃は、次第に鎮静していった。
桜井顧問は金振中営長の、毅然たる態度につくづく感心させられたようだった。
戦闘はどうやら一時小康を得ているらしい。
一行はふたたび県政府の客庁に戻って来た。金振中は部下に囲まれ、
客庁の真ん中に立ったまま、引っ切りなしにテキパキ命令を下していた。
「チェコワンリェ! チェコワンリェ!」(ご免下さい!) 運転手が大声でそう叫びながら、
大きなお膳を両手で抱え、警戒兵達を押分け、その命令下達の真ん中に割り込んで来た。
お膳には湯気の立った茶碗が幾つものっていた。
「サア来ました、来ました。大変お待たせ致しました」 と
林耕宇が卓上の地図や白旗などを片付け始めた。おなかをすかせた一同のため、
中国側が用意した簡単な朝食だった。
桜井顧問も私も、林耕宇も王冷斉も、そして金振中や周永業も、一斉に箸をとった。
「呉越同舟、朝餉の膳とは愉快だな! ねえ、そうだろう! 金営長!」
金振中もそれを聞いて朗らかに笑った。
フウフウ吹きながら中をかき回す。スープに浮いた卵の黄味が破れてパッと散った。
私は 「これがこの世の食い納めにならんとも限らんからなあ!」
という桜井顧問の言葉をしみじみと味わってみた。
警戒兵達は拳銃を握ったまま、まだ我々の一挙一動を見守っている。》
つづく
これは メッセージ 518 (kireigotowadame さん)への返信です.