盧溝橋事件30 人質状態の軍使一行
投稿者: kireigotowadame 投稿日時: 2010/07/25 17:28 投稿番号: [517 / 2250]
寺平忠輔著 『日本の悲劇
盧溝橋事件』 読売新聞社刊
123〜124p
《 私は覚えず時計を見た。とき、まさに昭和十二年七月八日、午前五時三十分であった。
私と桜井顧問はほとんど同時に、席をけって起ち上った。
「少佐殿、もうだめですッ、交渉は打ち切りに致しましょう」
「仕方がない。任務は放棄だ」
私はただちに金振中に対して申し渡した。
「営長、交渉は打ち切ろう、
すぐ、両軍の射ち合いをやめさせる事が先決問題だ。貴官は即刻、部下に対して
射撃中止を命令しなさい。我々は日本軍第一線に対して射撃中止を勧告する」
こういって話し合っている間にも、小銃弾が、ビューン!
異様な音を立てて城内、我々の頭上をとんでいった。
その一発が向い側の屋根に当り、パチッ! と跳弾となって
我々のいる客庁にハネ返って来る。
中国兵がドヤドヤ部屋に駆け込んで来た。
そして金振中に対し、口口に日本軍の暴挙を報告している。
まさかと思っていた最悪の事態が、我々の限の前に現実となって現われたのだ。
銃声、砲声、ダダダダ……という機関銃の掃射、宛平城外一帯の広野は、
一瞬にして両軍しのぎを削る戦場と化してしまったのである。
ドカーン! とすさまじい爆声が起る。
地響きと共に壁土がバラッバラッところがり落ちた。
日本軍の大隊砲弾が二、三軒隣の民家の屋根をブチ抜いたのだ。
土砂があられのように付辺一帯の屋根にとび散った。
城内外相呼応して、射つこと射つこと、なんというにぎやかな戦場風景だろう。
取りあえずこの情況を特務機関に報告しなければいかん。
私は窓際にあった卓上電話をとりあげた。
「二九八東局! 北京特務機関ですか、私は補佐官です。
機関長殿を大至急、お呼びして下さい!
機関長殿、私、補佐官です。ただいま桜井顧問と一緒に宛平城内、県政府に来ております。
中国軍代表と交渉中、タッタいま、城外で日華両軍衝突してしまいました。
いま猛烈に射ち合っています。銃声や砲声、電話を通してそちらにも聞えていますでしょう。
いまの大きな音はこの県政府内庭に据えられた、迫撃砲の発射音です。
中国側にはもう大分負傷者が出ているらしいです。
兵隊が盛んにそういって報告に来ています。
交渉は継続出来ません。もうだめです、第一の任務は放棄します。
取りあえず中国軍の営長に対していま、射撃中止を命令させました。
しかし彼等はまだ盛んに射っています。中国軍の兵力は一ケ大隊です。
だが城内には、一ケ中隊しかおりません。主力は永定河の中の島にいるようです。
城内には迫撃砲二門と、重機関銃をいくらか持っている事は確実です。
この事を牟田口連隊長の方にも至急連絡して下さい。
そして日本側もすぐ、射撃中止を命令するよう、そちらから手配をお願い致します」
一気呵成にここまでしゃべり続けて来た。機関長の声が返って来た。
「とうとうブツかってしまったか。もう仕方がない。
いまさら現地交渉といったところで始まりやしない。
いくさの方は一切森田中佐に委せて、君は桜井君とすぐこちらに帰って来給え。
機関は交渉や連絡やらで非常に忙しくなってくるから……」
・・・
「しかし私達、もうだめです。城外脱出なんて今の情況じゃ到底思いもよりません。
城門はすっかり土嚢でふさがれてしまいましたし、
部屋の入口は中国兵が一杯かためています。
また中国兵がドヤドヤ部屋の中にとび込んで来ました。
着剣で私達を包囲しています。帰還の時期はまったく予想がつけられません。
事によるとこれがお別れの言葉になるかもわかりませんが、しかし肚は立派にきめてます。
最後まで最善をつくしますからご安心下さい。
どうぞ機関員のみんなによろしく。
じゃあこれで電話を切ります。さようなら! さようなら」》
つづく
123〜124p
《 私は覚えず時計を見た。とき、まさに昭和十二年七月八日、午前五時三十分であった。
私と桜井顧問はほとんど同時に、席をけって起ち上った。
「少佐殿、もうだめですッ、交渉は打ち切りに致しましょう」
「仕方がない。任務は放棄だ」
私はただちに金振中に対して申し渡した。
「営長、交渉は打ち切ろう、
すぐ、両軍の射ち合いをやめさせる事が先決問題だ。貴官は即刻、部下に対して
射撃中止を命令しなさい。我々は日本軍第一線に対して射撃中止を勧告する」
こういって話し合っている間にも、小銃弾が、ビューン!
異様な音を立てて城内、我々の頭上をとんでいった。
その一発が向い側の屋根に当り、パチッ! と跳弾となって
我々のいる客庁にハネ返って来る。
中国兵がドヤドヤ部屋に駆け込んで来た。
そして金振中に対し、口口に日本軍の暴挙を報告している。
まさかと思っていた最悪の事態が、我々の限の前に現実となって現われたのだ。
銃声、砲声、ダダダダ……という機関銃の掃射、宛平城外一帯の広野は、
一瞬にして両軍しのぎを削る戦場と化してしまったのである。
ドカーン! とすさまじい爆声が起る。
地響きと共に壁土がバラッバラッところがり落ちた。
日本軍の大隊砲弾が二、三軒隣の民家の屋根をブチ抜いたのだ。
土砂があられのように付辺一帯の屋根にとび散った。
城内外相呼応して、射つこと射つこと、なんというにぎやかな戦場風景だろう。
取りあえずこの情況を特務機関に報告しなければいかん。
私は窓際にあった卓上電話をとりあげた。
「二九八東局! 北京特務機関ですか、私は補佐官です。
機関長殿を大至急、お呼びして下さい!
機関長殿、私、補佐官です。ただいま桜井顧問と一緒に宛平城内、県政府に来ております。
中国軍代表と交渉中、タッタいま、城外で日華両軍衝突してしまいました。
いま猛烈に射ち合っています。銃声や砲声、電話を通してそちらにも聞えていますでしょう。
いまの大きな音はこの県政府内庭に据えられた、迫撃砲の発射音です。
中国側にはもう大分負傷者が出ているらしいです。
兵隊が盛んにそういって報告に来ています。
交渉は継続出来ません。もうだめです、第一の任務は放棄します。
取りあえず中国軍の営長に対していま、射撃中止を命令させました。
しかし彼等はまだ盛んに射っています。中国軍の兵力は一ケ大隊です。
だが城内には、一ケ中隊しかおりません。主力は永定河の中の島にいるようです。
城内には迫撃砲二門と、重機関銃をいくらか持っている事は確実です。
この事を牟田口連隊長の方にも至急連絡して下さい。
そして日本側もすぐ、射撃中止を命令するよう、そちらから手配をお願い致します」
一気呵成にここまでしゃべり続けて来た。機関長の声が返って来た。
「とうとうブツかってしまったか。もう仕方がない。
いまさら現地交渉といったところで始まりやしない。
いくさの方は一切森田中佐に委せて、君は桜井君とすぐこちらに帰って来給え。
機関は交渉や連絡やらで非常に忙しくなってくるから……」
・・・
「しかし私達、もうだめです。城外脱出なんて今の情況じゃ到底思いもよりません。
城門はすっかり土嚢でふさがれてしまいましたし、
部屋の入口は中国兵が一杯かためています。
また中国兵がドヤドヤ部屋の中にとび込んで来ました。
着剣で私達を包囲しています。帰還の時期はまったく予想がつけられません。
事によるとこれがお別れの言葉になるかもわかりませんが、しかし肚は立派にきめてます。
最後まで最善をつくしますからご安心下さい。
どうぞ機関員のみんなによろしく。
じゃあこれで電話を切ります。さようなら! さようなら」》
つづく
これは メッセージ 516 (kireigotowadame さん)への返信です.