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盧溝橋事件20 桜井顧問 現場に現る

投稿者: kireigotowadame 投稿日時: 2010/07/15 18:41 投稿番号: [507 / 2250]
寺平忠輔著 『日本の悲劇   盧溝橋事件』 読売新聞社刊
109〜110p


《 大隊長が北京街道のところまでやって来た時である。 前の方に自動車が一台
停まっているのが目に入った。 大きな男が自動車の方からノッソリノッソリ歩いて来る。

大隊長は気にも止めず、なおも馬を走らせていると、突然その男が大声を出して
「オーイ!」 とどなった。この声でそれが軍事顧問桜井徳太郎少佐である事に気がついた。

瞬間   −   いよいよという間際に、これはまたすこぶる厄介な人間が
とび込んで来たものだなあ   −   と思わざるを得なかった。

そのわけは、去年の豊台車件の時、桜井少佐や中島中佐等、軍事顧問たちが、いちはやく
事件の渦中にとび込んで来て、とうとう事態を不拡大に揉(も)み消してしまった。


しかし作戦部隊の考える不拡大というのは、顧問のそれとは少々趣を異にしていた。
すなわち同じ天津軍である以上、隠忍自重、不拡大に徹底する

という、根本趣旨については何らの変りもなかったが、
部隊側としては

  −   対華政策は餅を搗 (つ) くようにやれ、つまりたたいたり丸めたりする事が大切である。
小さく楯突いて来たら小さくたたけ。それが本当の不拡大である。

これをそのまま放置したり、無理やり丸め込んだりすると、
中国側の侮日観念はますます増長し、瀰漫 (びまん) し、

ついには収拾がつかないほど、大きく楯突いてくるようになる。
だから小さくたたくという事は、決して不拡大の本旨には反しない。   −

こういう解釈を持っていた。


軍事顧問等の調停あっせんは、部隊側、とくに青年将校達にとっては、
実に煙たい存在でもあったわけである。

大隊長はとっさに考えた。この前の時はしゃにむに和解調停を押しつけられたが、
今日こそはこちらから高飛車に出て、顧問の先手を打ってやろう。

そこで馬上から

「ヤア、桜井さん、夜中にどうも遠い所を、まったくご苦労様です。
私はこんどというこんどは、もう断乎としてやっつけますよ。

あなたはご存知ないでしょうけれど、午前三時二十五分、
またまた三回目の不法射撃を受けたんです。

そこで連隊長殿に電話で報告したところ、タッタいま、
やってよろしいという、攻撃命令を受けたんです」


すると桜井顧問は 「イヤこんどは強いて留めやしません。
しかしこれについては若干、あなたにお話しておかなきゃならん事がある。

それでいま、あなたを探してやって来たところです。私はいま、ここへ来る直前、
秦徳純のところへ行って事件の善後措置について協議してきたんです。


つづく
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