盧溝橋事件8 堤防の中国兵
投稿者: kireigotowadame 投稿日時: 2010/06/30 18:50 投稿番号: [492 / 2250]
寺平忠輔著 『日本の悲劇
盧溝橋事件』 読売新聞社刊
83〜85p
《「大隊長殿この事件が今後どういうふうに進展するにもせよ。
こちらとしてはまず、不法射撃の確証を掴んでおく事が先決問題だと思います。
捕虜を獲得するのが一番好い方法ですが、もし掴まえに行くとすれば、
夜明け前にやっつけなくちゃなりません。
今すぐ出発すれば、一人や二人、引っ張って来る事もそう困難じゃないと
思います。いかがでしょうか」
「それもそうだなあ! だれかシッカリした小隊長でも遣るか」
「いや、私が自分で行って来ます。若い連中じゃちょっと心許ないと思います」
・・・
清水大尉は小隊に戻ると、早速俊秀な下士官兵六名を選抜し、
これに捕虜捕獲の要領を説明し、縄など持たせて全員軽装、西五里店を出発した。
・・・
やがて一隊の目の前に、竜王廟南側のトーチカが、黒くボンヤリと浮び上って来た。
中隊長を真ん中にして散開した一隊は、静かに、このトーチカを包囲し、
足音を忍ばせてその表側から入口に迫った。
息を凝らして中をうかがったが、内側からは物音一つ聞えて来ない。
中隊長は単身この中に入り込んで行って、懐中電燈をバッと一気に照らしつけた。
中にはアンペラが一枚敷いてあるきりである。人ッ子一人目に映らない。
光に驚いた小さな蛙が、無数にアンペラの上をピョンピョン跳んだ。
「おらん! 今度は堤防の方を捜そう」
一隊は更に堤防に向った。
漸 (ようや) く堤防の東、十メートルくらいに近づいた時、
兵の一人が突然、低い声で、「中隊長殿! 敵が……」 とその袖を引いた。
全員、ハッと低い姿勢に移って瞳 (ひとみ) をこらし、前の方を眺めると、
薄暗い空間に投影して、棒杭のようなものが二つ突っ立っている。
ジーッと見ていると、それが少しずつ、少しずつ移動している。
まさしく動哨 (どうしょう) に違いない。
「オイッ! あいつらをヒッ掴まえてやろう。間隔を開いて静かに前進!」
一隊は敵に気付かれないよう、静かに前進した。
突如、堤防の壕の中から、別の数名の中国兵が起ち上って
「誰呼 (シュイヤ) !」 − 鋭く叫んだ。
− シマッタ! −
そう思った瞬間、清水大尉はとっさの気転で中国語を使い、
「ニーメン這裡 (チェリー) 有一個 (ユーイーコ) 日本兵 (リーペンピン) 来了 (ライラ)
没有 (メーヨー)? 他在 (ターツァイ) 這辺 (チェイペン) 失 (シー) 迷路 (ミールー)
途了 (トーラ)」(こちらの方に日本兵が一人やって来なかったか?
彼はこの辺で道を迷ってしまったんだ)と応答した。
・・・
中国兵は壕の上に立ち上って、銃を構えながらも口々に
「没有来 (メーヨーライ)!」「没看見過 (メーカンチェンコ)」
(来ないぞ!)(見なかったなあ)
この声を聞きつけた中国兵達は、なんだなんだ、とあちらからもこちらからも
頭をもたげ出してきた。その数実に十数名にも及んでいる。
「こりやあいかん! 敵兵捕獲どころの騒ぎじゃない。まかり間違ったらこっちの方が
かえって捕虜にされてしまう。こんな危険なところに長居は無用!−。
一行はとうとう捕獲を断念し、逐次北方に移動して、
そのまま暗闇の中に姿をくらましてしまった。
中国兵はこの一問一答によって、相手が日本兵である事は、
はっきり察知出来たはずである。
しかるにこの清水大尉一行に対し、ついに一発の射撃すらもあえてしてこなかった。》
つづく
* 一般的には堤防上の中国兵が銃撃したとされているが、
この様子から見ると銃撃犯は彼らとは違うのではないかと思われる?
《「大隊長殿この事件が今後どういうふうに進展するにもせよ。
こちらとしてはまず、不法射撃の確証を掴んでおく事が先決問題だと思います。
捕虜を獲得するのが一番好い方法ですが、もし掴まえに行くとすれば、
夜明け前にやっつけなくちゃなりません。
今すぐ出発すれば、一人や二人、引っ張って来る事もそう困難じゃないと
思います。いかがでしょうか」
「それもそうだなあ! だれかシッカリした小隊長でも遣るか」
「いや、私が自分で行って来ます。若い連中じゃちょっと心許ないと思います」
・・・
清水大尉は小隊に戻ると、早速俊秀な下士官兵六名を選抜し、
これに捕虜捕獲の要領を説明し、縄など持たせて全員軽装、西五里店を出発した。
・・・
やがて一隊の目の前に、竜王廟南側のトーチカが、黒くボンヤリと浮び上って来た。
中隊長を真ん中にして散開した一隊は、静かに、このトーチカを包囲し、
足音を忍ばせてその表側から入口に迫った。
息を凝らして中をうかがったが、内側からは物音一つ聞えて来ない。
中隊長は単身この中に入り込んで行って、懐中電燈をバッと一気に照らしつけた。
中にはアンペラが一枚敷いてあるきりである。人ッ子一人目に映らない。
光に驚いた小さな蛙が、無数にアンペラの上をピョンピョン跳んだ。
「おらん! 今度は堤防の方を捜そう」
一隊は更に堤防に向った。
漸 (ようや) く堤防の東、十メートルくらいに近づいた時、
兵の一人が突然、低い声で、「中隊長殿! 敵が……」 とその袖を引いた。
全員、ハッと低い姿勢に移って瞳 (ひとみ) をこらし、前の方を眺めると、
薄暗い空間に投影して、棒杭のようなものが二つ突っ立っている。
ジーッと見ていると、それが少しずつ、少しずつ移動している。
まさしく動哨 (どうしょう) に違いない。
「オイッ! あいつらをヒッ掴まえてやろう。間隔を開いて静かに前進!」
一隊は敵に気付かれないよう、静かに前進した。
突如、堤防の壕の中から、別の数名の中国兵が起ち上って
「誰呼 (シュイヤ) !」 − 鋭く叫んだ。
− シマッタ! −
そう思った瞬間、清水大尉はとっさの気転で中国語を使い、
「ニーメン這裡 (チェリー) 有一個 (ユーイーコ) 日本兵 (リーペンピン) 来了 (ライラ)
没有 (メーヨー)? 他在 (ターツァイ) 這辺 (チェイペン) 失 (シー) 迷路 (ミールー)
途了 (トーラ)」(こちらの方に日本兵が一人やって来なかったか?
彼はこの辺で道を迷ってしまったんだ)と応答した。
・・・
中国兵は壕の上に立ち上って、銃を構えながらも口々に
「没有来 (メーヨーライ)!」「没看見過 (メーカンチェンコ)」
(来ないぞ!)(見なかったなあ)
この声を聞きつけた中国兵達は、なんだなんだ、とあちらからもこちらからも
頭をもたげ出してきた。その数実に十数名にも及んでいる。
「こりやあいかん! 敵兵捕獲どころの騒ぎじゃない。まかり間違ったらこっちの方が
かえって捕虜にされてしまう。こんな危険なところに長居は無用!−。
一行はとうとう捕獲を断念し、逐次北方に移動して、
そのまま暗闇の中に姿をくらましてしまった。
中国兵はこの一問一答によって、相手が日本兵である事は、
はっきり察知出来たはずである。
しかるにこの清水大尉一行に対し、ついに一発の射撃すらもあえてしてこなかった。》
つづく
* 一般的には堤防上の中国兵が銃撃したとされているが、
この様子から見ると銃撃犯は彼らとは違うのではないかと思われる?
これは メッセージ 491 (kireigotowadame さん)への返信です.