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1939年 蒋介石側の工作を破る

投稿者: kireigotowadame 投稿日時: 2013/02/12 18:44 投稿番号: [2241 / 2250]
晴気慶胤著   『上海テロ工作76号』   毎日新聞社
146〜148p


《 小野寺中佐と会見した戴笠と称する男は、蒋介石の信任状をまず示してから



「和平交渉を日本の大本営とするように蒋介石から秘密の命令をもらって

危険な上海にやってきた。 日華をほんとうに和平させるには

中国を現に支配している蒋介石と手を握るほかはない。

汪兆銘の擁立などに憂き身をやつしているものにはこの理屈がわからないようだ。

私は小野寺機関にお世話を願って、

なるべく早く日本の中央部と直接に和平交渉をはじめたい」



と   「日華和平の具体策について」   という長文の意見書を差し出した。

意大いに動いた小野寺中佐はきっそく、その意見書に添えて

「重慶との直接交渉の橋渡しをしたい」   と東京に報告した。



小野寺機関は   『七十六号』   の力が及ばない日本軍警備区域内の虹口にあった。

この会見が行われてからは藍衣社員は小野寺機関に公然と足繁く出入りしていたが、

巷には敵の宣伝によって日華の直接交渉が戴笠と小野寺中佐の間で

順調に進行中だという風説が、さも事実らしく伝えられていた。


その上、心ない小野寺中佐の部下までが

「蒋介石との和平ができたら、小野寺さんの銅像が九段に立つだろう」   と

放言して、汪派の神経をいよいよいらだたせた。



これは容易ならぬ敵の謀略だった。

『七十六号』   は、すぐそれが敵の工作であることを見破った。

そして李士群は流言の火元を苦心して調べ、

それからまた小野寺中佐が会った藍衣社の首領、戴笠はにせ者であった

ことまで、突きとめて本物の戴笠の写真をそえて報告してきた。



しかし、私はそれを暴くことによって汪政府樹立工作に当たる影佐機関が、

小野寺機関と下手に対立することにならないよう、

うまく解決すべく憲兵隊の林少佐に善処を依頼した。

戴笠は絶対に上海に来ていないと信じている林少佐は李士群から

戴笠の写真を借りて、さっそく小野寺中佐を訪ねた。そして、



「小野寺さん。この写真の中でご存じの人はありませんか」

と戴笠を交えた四、五枚の中国人の写真を取り出した。

「知っている者は一人もいませんね」

「小野寺さんがお会いになった戴笠はいませんでしょうか」

「いませんね」

小野寺中佐は教えるようにいう。



「戴笠はここにある写真のような男ではなく、

もっと福々しくて、一見商人風に見える優男ですよ」

偶然、そこに居合わせた支那通の鹿島宗二郎氏の眼が数枚の写真に輝いた。

鹿島氏は戴笠の写真を引き出した。

「小野寺さん。冗談じゃないですよ、これが戴笠ですよ」



小野寺中佐は愕然と色を失った。

人の好い彼も、はじめてにせ戴笠と会見したことに気づき、

藍衣社の手先に翻弄された自分のみじめな姿を悟ったのである。

こうなっては何の和平交渉があろうか。

一時上海を騒がした小野寺工作は、こうして泡沫のように消えてしまった。》
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