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1939年 ノモンハン27 帰る参謀本部部長

投稿者: kireigotowadame 投稿日時: 2012/12/04 19:02 投稿番号: [2091 / 2250]
辻正信著   「ノモンハン秘史」   毎日ワンズ
184〜185p


《 最精鋭第七師団の戦力も、連隊長がこれでは頼みにならぬと、がっかりしながら、

元の師団司令部位置に辿り着いたとき、夜は全く明けはなれていたが、

そこにはもはや、一人の兵隊もいなかった。



師団長と副長を喜ばせようと思って急いで帰ったのに、

すでに昨夜の中に位置を移動したらしい。

ただ、馬が一頭、鞍を置かれたままションボリと草を食っている。

見覚えのある馬だ。確かに師団長の乗馬だ。

近づいて、鼻づらを撫でてやると、人懐かしそうに、言葉さえ出したいような表情である。

この動物もまた主人の行方を見失って、淋しがっていたのであろう。



「よし、よし、俺が連れてってやるよ……」

  平首をたたいて愛撫し、ヒラリと飛び乗って、

砂上に残された足跡を辿りながら、南に進んだ。

昨日戦ったハルハ河左岸の戦場には、まだ戦車の燃える黒煙が数条立ち上っている。

砲弾がときどき思い出したように、前に後ろに炸裂する中を、ただ一騎南に急いだ。



ハルハ河に架けられた橋の向こう岸には、十数台の敵の戦車がひしめき合っている。

黒煙にハッと思うと、橋板が水柱と共に高く空中に噴き上げられ、轟然たる爆破音が響いた。

工兵隊長は敵戦車に妨碍されて、橋を取り外す暇がなかったのである。

敵の戦車が我に追尾して渡りかけたところを、橋諸共爆破したのであった。



砂丘の蔭に、壕を掘って休んでいる師団司令部を見つけたときは、思わずホーッとした。

須見連隊を全員無事撤収し得た報告に、師団長も副長も心から喜ばれた。

参謀本部から第一部長   (作戦)   が初めて戦場付近に進出し、

三日朝からの戦況を将軍廟で視察していた。

たまたま敵の爆撃機で橋梁付近がやられるのを目撃し、

戦況が不利であるとの感じを受けて、師団長にも会わずにさっさと引き揚げた。



師団長も副長も、身を第一線に曝して戦っているとき、中央部の高級幕僚が

現地の師団長にも会わずに帰京したことは、第一線に決してよい印象は残さなかった。

この部長が、事態の認識を誤り、悲観的な態度を取ったことは、

他日大きな齟齬   (そご)   を来たす原因となったのである。》



つづく
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