1939年7月 ノモンハン事件25 右岸まで撤退
投稿者: kireigotowadame 投稿日時: 2012/12/02 16:01 投稿番号: [2086 / 2250]
辻正信著
「ノモンハン秘史」
毎日ワンズ
176〜179p
《 一望千里の大草原に、身を隠す一本の樹木さえない戦場で、
姿を発見し得ない敵の重砲と、量を誇る戦車を相手とする我が歩兵の戦闘は、
正午頃からだんだん不利になってきた。
新手を増加した大戦車群は、午後二時頃、ついに大逆襲に転じた。
ハルハ河に架けたただ一本の橋梁に、約三十機の敵の爆撃機が投弾し、
また深く側方より侵入した戦車十数輌が、この橋梁を目がけて殺到しつつある。
朝からの戦いで百輌以上をたたき潰したが、弾薬の補充は多く期待し得ない。
急襲の効果はようやく失われ、陣容を立て直した敵は、
重砲支援の下に数を恃 (たの) んで、逆襲を反復した。
午後四時頃には、草原の各所で彼我の混戦乱闘が演ぜられ、
残り少ない弾丸で必中弾を浴びせたものの、
ついに質は量を制し得ないような様相を呈してきた。
ハルハ河左岸に進出した我が対戦車火砲は、
速射砲十六門、野砲十二門、山砲八門、合計三十六門であるが、
戦場になお健在する敵戦車は二百輌を超えるのみならず、
これを支援する敵砲兵は、野山砲、重砲を併せて、少なくも四、五十門に達するらしい。
午後の戦闘で、さらに約五十輌を炎上させたが、昨日まで姿を現わさなかった敵空軍は、
ややもすると、我が空中勢力を凌駕するかに見える。
遥かに川又橋梁を俯瞰すると、ハルハ河右岸の戦線も、ようやく膠着の色が見える。
水の補給は全くなく、早朝ハルハ河渡河点で鱈腹 (たらふく) 飲み、
水筒一本を満たしただけだ。朝から灼熱の大地に木蔭とてない戦場で、
激戦苦闘し、一滴も余す者がない。将兵の疲労はその極に達している。
師団長の企図したことは、この一撃で敵砲兵を全滅し、川又付近を遮断して、
右岸の敵を捕捉するにあったが、ようやくその困難なことを自覚しなければならなくなった。
幸いに第一線連隊と砲兵の奮闘によって、第二の大逆襲を撃退し得たが、
恐らく敵は今夜さらに新鋭を増加して、明朝から反撃に転ずるであろう。
第一線はすでに壕を掘り、攻勢から防勢に転じている。
師団長と矢野副長、服部参謀と四人で、第一線の戦況を踏まえ、
明四日以後の戦闘指導について協議した。
副長から、「閣下の御考えは如何ですか」 と口を切ると、
師団長は、「軍の御指示の通りやりたいと思います。
このまま攻撃を続行せよとの御示しならば万難を排して小松台を攻撃しましょう。
また左岸から撤退して右岸攻撃に重点を向けよ、とならば、今夜主力を以て転進しましょう」
副長と服部参謀と著者とで、爾後の指導をどうするかについて研究の結果、
次の理由で主力を右岸に転進させる意見に一致した。
・・・・
やがて副長は師団長に向かって意見を具申した。
「軍は左岸の戦闘を中止し、右岸攻撃に師団の全力を結集使用するを
全般の戦況上有利と判断します」
師団長も師団参謀も内心この意見を希望していたことは察するに難くない。
快く容れられ、即座に各部隊長を集めて、本夜の転進を命令された。
・・・・
せっかく左岸に進出した師団主力が目的を達し得ずに転進することは、
何とも申し訳がない。しかし万一躊躇して、師団を孤立無援の危地に曝してはならぬ。
「まあ、この辺が潮時だろう」 と、あきらめねばならなかった。》
つづく
176〜179p
《 一望千里の大草原に、身を隠す一本の樹木さえない戦場で、
姿を発見し得ない敵の重砲と、量を誇る戦車を相手とする我が歩兵の戦闘は、
正午頃からだんだん不利になってきた。
新手を増加した大戦車群は、午後二時頃、ついに大逆襲に転じた。
ハルハ河に架けたただ一本の橋梁に、約三十機の敵の爆撃機が投弾し、
また深く側方より侵入した戦車十数輌が、この橋梁を目がけて殺到しつつある。
朝からの戦いで百輌以上をたたき潰したが、弾薬の補充は多く期待し得ない。
急襲の効果はようやく失われ、陣容を立て直した敵は、
重砲支援の下に数を恃 (たの) んで、逆襲を反復した。
午後四時頃には、草原の各所で彼我の混戦乱闘が演ぜられ、
残り少ない弾丸で必中弾を浴びせたものの、
ついに質は量を制し得ないような様相を呈してきた。
ハルハ河左岸に進出した我が対戦車火砲は、
速射砲十六門、野砲十二門、山砲八門、合計三十六門であるが、
戦場になお健在する敵戦車は二百輌を超えるのみならず、
これを支援する敵砲兵は、野山砲、重砲を併せて、少なくも四、五十門に達するらしい。
午後の戦闘で、さらに約五十輌を炎上させたが、昨日まで姿を現わさなかった敵空軍は、
ややもすると、我が空中勢力を凌駕するかに見える。
遥かに川又橋梁を俯瞰すると、ハルハ河右岸の戦線も、ようやく膠着の色が見える。
水の補給は全くなく、早朝ハルハ河渡河点で鱈腹 (たらふく) 飲み、
水筒一本を満たしただけだ。朝から灼熱の大地に木蔭とてない戦場で、
激戦苦闘し、一滴も余す者がない。将兵の疲労はその極に達している。
師団長の企図したことは、この一撃で敵砲兵を全滅し、川又付近を遮断して、
右岸の敵を捕捉するにあったが、ようやくその困難なことを自覚しなければならなくなった。
幸いに第一線連隊と砲兵の奮闘によって、第二の大逆襲を撃退し得たが、
恐らく敵は今夜さらに新鋭を増加して、明朝から反撃に転ずるであろう。
第一線はすでに壕を掘り、攻勢から防勢に転じている。
師団長と矢野副長、服部参謀と四人で、第一線の戦況を踏まえ、
明四日以後の戦闘指導について協議した。
副長から、「閣下の御考えは如何ですか」 と口を切ると、
師団長は、「軍の御指示の通りやりたいと思います。
このまま攻撃を続行せよとの御示しならば万難を排して小松台を攻撃しましょう。
また左岸から撤退して右岸攻撃に重点を向けよ、とならば、今夜主力を以て転進しましょう」
副長と服部参謀と著者とで、爾後の指導をどうするかについて研究の結果、
次の理由で主力を右岸に転進させる意見に一致した。
・・・・
やがて副長は師団長に向かって意見を具申した。
「軍は左岸の戦闘を中止し、右岸攻撃に師団の全力を結集使用するを
全般の戦況上有利と判断します」
師団長も師団参謀も内心この意見を希望していたことは察するに難くない。
快く容れられ、即座に各部隊長を集めて、本夜の転進を命令された。
・・・・
せっかく左岸に進出した師団主力が目的を達し得ずに転進することは、
何とも申し訳がない。しかし万一躊躇して、師団を孤立無援の危地に曝してはならぬ。
「まあ、この辺が潮時だろう」 と、あきらめねばならなかった。》
つづく
これは メッセージ 2084 (kir**gotowa**me さん)への返信です.