紫陽花亭日乗

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提婆達多 ⑪

投稿者: ajisai110701 投稿日時: 2011/07/14 21:12 投稿番号: [89 / 735]
はじめ提婆達多は、ヤショダラのうぶな馬鹿正直・生真面目を嘲笑し、
容色の欠点のあらさがしをした。
が、さすがの提婆達多も、自分にこの身も心もささげた女を
可憐と思わずにはいられなくなった。

ヤショダラとの逢瀬を重ねるにつけ、提婆達多は、
不思議にも自分の心が次第に彼女にひかれてゆくのを感じた。

そしてそんな自分をいまいましく思い、堪え難い屈辱と不満を感じた。

「何事だ」
「己(おれ)はこんな女につかまってたまるものか。己はこの女を慰むのだ。
己はただ意地と復讐のためにこんな女にかかりあっているのだ」


ヤショダラは頬を染めながら、涙痕のあとも艶めかしい目で
提婆達多をみあげてささやく。

「あたくし、あなたに棄てられれば死んでしまいますわ」



「どうなりとも御勝手に。なんという厚かましい女だろう」

提婆達多は胸のうちでひとりごちた。



「今度はいつ来てくださいますの。あたくしいつでも、
お別れしたときからすぐもう待っておりますのよ」


ちょうどヤショダラが彼の肉にひきずられてゆくように、
提婆達多は次第にヤショダラの美しい心に捕えられてゆく。

彼は戦いかつ戦った。
とはいえ戦のはじまったときすでに敗れているのだということを
知らなかった。

ヤショダラの誠実によって、彼の心はわずかに目覚めた。

提婆達多はようやく、一つの接吻、ひと綴りの言葉に
誠をこめて彼女に報ゆるようになった。
このようにして終に二人は互いに解放されることのない
捕虜となってしまった。

それと同時に、提婆達多は自分のヤショダラに対する行動の
動機と態度と結果とについて、痛烈な悔恨に苦しんだ。

彼は、自分の恋が二重の意味において誠実であらねばならぬことを思った。
彼は己を蘇らしめたこの恋を、すべてをこえて高く評価した。
提婆達多は新たに獲得した肉を貪ると同時に、新たに経験した恋に狂った。
そして悔恨の苦悶に呻くとともに勝利の歓呼をあげた。



つづく

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