提婆達多 ⑩
投稿者: ajisai110701 投稿日時: 2011/07/14 21:08 投稿番号: [88 / 735]
ヤショダラを手に入れた提婆達多は、その復讐計画の成功に対する満足よりは
むしろそのあまりにあっけなかったことに対する不満のほうをより多く感じた。
もともとヤショダラは、提婆達多にとって食指を動かすような女ではなかったのだ。
彼女が婿選びの賭物でなかったなら、あのときシッタルタにおくれを
とらなかったら、ヤショダラがシッタルタの妻でなかったなら・・・・・
どうして鴎なんぞに目をくれようか。
とはいえ今、女を手に入れてみれば、さすがに提婆達多とても
己の肉的所有物に対する動物一般の本能的な愛着を起さずにはいられなかった。
彼はこの新規の肉団に対しての好奇的愛玩心、新鮮熾烈な欲情を催した。
提婆達多はこの牝馬を使えるうちは出来るだけ使っておこうという
経済的な考えからしても、飽くまで彼女の身心を貪り弄んだ。
ヤショダラは提婆達多を恋した。
提婆達多の最も誠実な情人となった。
提婆達多の訪れを待つその日、ヤショダラは水浴をした。
髻(もとどり)を解かれた漆黒の長い髪はさらさらと流れ落ち
柔らかく波うちながら乳から腰のあたりまでをかくした。
侍女たちがひとつひとつ全身に飾られた宝飾品をはずし、
石床の上に広げられた絹布の上に置いていく。
最後に下半身に巻かれた純白の絹布がくるくるとほぐされたとき、
たぐいなき完全なる裸身があらわれた。
雲の帳を出でた満月のように美と矜(ほこり)をくまなくさらし、
見とれる侍女たちをあとにヤショダラはひとり石階を降り、
するりと水につかった。水がかすかに波紋を描いた。
「提婆達多」
思うだけでもう胸がときめいて我しらず微笑がこぼれる。
これはヤショダラにとって初恋であった。
それは、はじめて飲む強い酒のように彼女を酔わせた。
提婆達多の手練手管は、毒酒のように胸苦しく彼女を酔わせた。
夢にも現にも提婆達多を忘れたことはなかった。
今や提婆達多は彼女の頼みうる唯一のすべてのものであった。
「提婆達多」
「いつまでもみすてずに・・・私はもうなにもかもすててしまったのですもの・・・」
なにもかもすててはいなかった。
ラーフラがいた。王宮での生活もすてるわけにはいかなかった。
だがやはり彼女の恋は命がけであった。
つづく
2369
むしろそのあまりにあっけなかったことに対する不満のほうをより多く感じた。
もともとヤショダラは、提婆達多にとって食指を動かすような女ではなかったのだ。
彼女が婿選びの賭物でなかったなら、あのときシッタルタにおくれを
とらなかったら、ヤショダラがシッタルタの妻でなかったなら・・・・・
どうして鴎なんぞに目をくれようか。
とはいえ今、女を手に入れてみれば、さすがに提婆達多とても
己の肉的所有物に対する動物一般の本能的な愛着を起さずにはいられなかった。
彼はこの新規の肉団に対しての好奇的愛玩心、新鮮熾烈な欲情を催した。
提婆達多はこの牝馬を使えるうちは出来るだけ使っておこうという
経済的な考えからしても、飽くまで彼女の身心を貪り弄んだ。
ヤショダラは提婆達多を恋した。
提婆達多の最も誠実な情人となった。
提婆達多の訪れを待つその日、ヤショダラは水浴をした。
髻(もとどり)を解かれた漆黒の長い髪はさらさらと流れ落ち
柔らかく波うちながら乳から腰のあたりまでをかくした。
侍女たちがひとつひとつ全身に飾られた宝飾品をはずし、
石床の上に広げられた絹布の上に置いていく。
最後に下半身に巻かれた純白の絹布がくるくるとほぐされたとき、
たぐいなき完全なる裸身があらわれた。
雲の帳を出でた満月のように美と矜(ほこり)をくまなくさらし、
見とれる侍女たちをあとにヤショダラはひとり石階を降り、
するりと水につかった。水がかすかに波紋を描いた。
「提婆達多」
思うだけでもう胸がときめいて我しらず微笑がこぼれる。
これはヤショダラにとって初恋であった。
それは、はじめて飲む強い酒のように彼女を酔わせた。
提婆達多の手練手管は、毒酒のように胸苦しく彼女を酔わせた。
夢にも現にも提婆達多を忘れたことはなかった。
今や提婆達多は彼女の頼みうる唯一のすべてのものであった。
「提婆達多」
「いつまでもみすてずに・・・私はもうなにもかもすててしまったのですもの・・・」
なにもかもすててはいなかった。
ラーフラがいた。王宮での生活もすてるわけにはいかなかった。
だがやはり彼女の恋は命がけであった。
つづく
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これは メッセージ 87 (ajisai110701 さん)への返信です.
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