紫陽花亭日乗

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提婆達多 ⑦

投稿者: ajisai110701 投稿日時: 2011/07/13 23:31 投稿番号: [85 / 735]
失意のヤショダラをささえたのは提婆達多であった。
ヤショダラは、提婆達多の力強く美しい手にすがった。

夫の帰城はとうに諦めてはいたが、ヤショダラの生きるよすがは、
ありし日のシッタルタとの相愛の日々を想いおこし、その委曲をこまごまと、
頻繁に訪ねてくる提婆達多に語って聞かせることだった。
提婆達多は煮えくりかえる胸の炎を鎮め、息の詰まるような嫉妬に苦しみ、
シッタルタへの憎悪をおしかくしながら、さりげない笑顔をつくり、
辛抱強く天真爛漫なヤショダラの相手をした。

ヤショダラは提婆達多にラーフラを抱くよう求め、
この子がシッタルタにどんなに似ているかということに同意を求めるのだった。
ラーフラは母そのままのコピーで、豪も父親には似たところがないにもかかわらず。
提婆達多は、ラーフラを抱愛しながら、熱鉄を呑まされる思いをじつとこらえて、
彼女の乳首から乳のたれるのを見た。

「彼奴はこの女に獅噛みついてこの肉塊をこしらえたのだ」


一年が過ぎた。

ヤショダラの提婆達多に対する感情は、埋もれたる種子の芽となり、苗となり、
立派な若木となるように、目には見えずに次第に成長しかつ形をかえた。
そのようなヤショダラの微妙な変化を、提婆達多は見逃さなかった。
困難ではあるが望のある許されぬ秘密の恋は
――これをしも恋というべくは――彼の心を有頂天にした。

いまやヤショダラにとって提婆達多はなくてはならぬものとなった。


おりしも提婆達多のカピラバストゥー訪問は徐々に足が遠のき、稀なものとなった。

ヤショダラのもとにあるときには、ぼんやりとひとつところを見つめ、
ことさらに大きな溜息をもらし、時にその大きな目には涙さえ浮かんでいた。


ひさかたぶりに提婆達多がやってきた。

「提婆達多、まああなたはどうなすったのですか。
私をお忘れになったのですか。随分お久しいではありませんか」

提婆達多の目には涙が浮かんでいる。

「私はどうすればよいのであろう」
「私は思いきっていってしまおう。オショダラ、ゆるしてください。
私は・・・・・私はあなたを恋している・・・・・」

ヤショダラはそこに石像のように居すくまり、
そして慄えながら唖のように提婆達多を見つめた。


つづく

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