紫陽花亭日乗

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Re: 『蕭蕭』     沈従文

投稿者: ajisai110701 投稿日時: 2011/10/16 00:45 投稿番号: [663 / 735]
女学生とはどんなものかという祖父の話を聞いたことにより、
そのあと蕭蕭は長い時間一人笑いをしていた。
思い切り笑った後で、蕭蕭は言った。

「お爺さん、あした女学生が通ったらうちを呼んで。
うち、ちょっと見てみたいから」

「おまえが見とったら、女学生はおまえを捉まえて連れてって奴隷にしちまうど」

「うち、女学生なんかこわくないもん」

「あいつらが洋書を読みお経を唱えてもこわくないか? 」

「観音菩薩消災経を唱え、金箍呪(きんこじゅ)を唱えれば、怖くなんかないもん」

「女学生は人に喰いつくぞ。役人と同じだ。田舎者ばかり喰らうんだ。
人の骨まで平気でバリバリ食らうんだぞ。それでもこわくないか? 」

蕭蕭はがんとして言い張った。

「こわくない」

ところがこの頃、蕭蕭の手に抱かれている幼夫は、
どういうわけか寝つくと夢を見て哭く。
すると妻である蕭蕭は母親のような声音ですかしたり脅したりする。

「弟弟(ディーディ)、弟弟、哭いたらいかん、哭いたらいかん、
女学生が喰いつきにくるよ」

幼夫がそれでも哭きやまないと、
抱きかかえてそこいらを歩きまわることになる。
蕭蕭が幼夫を抱いて行ってしまうと、
祖父は誰かと他のいつもしているような昔話をする。

このときから蕭蕭の胸のうちに「女学生」が住みついた。
夢にまでいつも女学生があらわれた。
夢の中で女学生はいつも並んで道を歩いていた。
まるで自分で走る箱に乗ったことがあるかのように、蕭蕭はまた、
この箱は自分が駆けるほどには、決して速くはないと思った。
夢の中に出てきたその箱の形は穀物倉と大差なく、中には小さな灰色の鼠が
いて、その鼠の目んたまは真っ赤でそこらじゅうを駈けずり回っていた。
ときに入り口の隙間から小さな尻尾を外に出している。

そんなこんながあって祖父はそれから蕭蕭を呼ぶのに
「小Y頭・シァオヤートウ(=小間使い)」とも呼ばず、「蕭蕭」とも呼ばず、
なんと「女学生」と呼ぶようになった。
不注意にも、蕭蕭は非常によい返事をしたものだった。

時の流れは田舎も外の世界も同じだが、ときに異なることもある。
世のなかの人は日一日を粗末にするが、蕭蕭と同じような稼業の家では
日一日を惜しむことは同じである。
各々になすべき仕事があり、各々が分担ししている。

多くの都会に住む文明人は、ひと夏を完全に柔らかな絹の衣服で過ごし、
すてきな飲み物がさまざま楽しい場面に登場する。

蕭蕭の家では、ひと夏の労働として十数斤の細麻と二三十担(一担=100斤)
の瓜を収穫する。

人妻となってからの蕭蕭は、ひと夏のうちに一方では幼夫の養育をしながら、
さらに細麻四斤を織る。
秋八月ともなれば日雇いが瓜の取り入れをするので、瓜の間で遊ぶ。
瓜の大きなものはお盆のようだ。
表面全体にに灰色の粉を吹いた大きなカボチャが地面に並べられ
積み上げられるのは面白い。



★金箍呪(きんこじゅ)
『西遊記』で三蔵法師が孫悟空にいうことをきかせるために唱えた呪文



つづく

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