紫陽花亭日乗

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Re: 『蕭蕭』     沈従文

投稿者: ajisai110701 投稿日時: 2011/10/16 00:40 投稿番号: [661 / 735]
蕭蕭はよくわからなかったから笑わなかった。
それで老祖父はまた話を続けた。

「蕭蕭、おまえも大きくなったら女学生になるのじゃよ」

みなはそこで、もっと、どっと大笑いだ。
蕭蕭の人となりはけっして暗愚ではない。
これはきっと自分にとって不利益な話だと思い、あわてて言った。

「お爺さん、うちは女学生にはならん」

「おまえは女学生みたいなのに、ならんというのはいかん」

「うちはならん」

みな、ことさらにからかって異口同音に言う。

「蕭蕭、爺さんの言っていることは正しい。女学生にならいではすまん」

蕭蕭は焦ってなすすべもなく、
「ならんならんのならなるよ。こわくないよ」

その実、女学生になることの何がよくないのか、
蕭蕭にはまったくわからなかった。

女学生というものは、田舎では確かに永遠の珍聞奇談だ。
毎年六月になると「夏季休暇」になる、すると例によって女学生が
三三五々、経験したこともないほど滅茶苦茶暑い処からやって来て、
どこか遠い所へ行くのにこの地を通り過ぎて行く。
田舎の人々の目には、これらの女学生はみな別世界の住人に思える。
装いは奇々怪々、行動はもっと不可思議だ。
女学生が通り過ぎると、村人にとって一日中笑い話のネタになるのだ。

祖父は、ご当地ではなかなかの名士である。
なぜならば、自分の知っている女学生についての街中での生活状況を
思い出しては、蕭蕭をも女学生にしようと笑い話にするから。
こういう話を聞くと一種の冗談として興味を感じるが、
また一方ではそのように言われた蕭蕭にとってある種の恐惶となり、
このての話は無意味ではないのである。

女学生とは、祖父の知識によると、このような種類の人らしい。

女学生は、暑かろうが寒かろうがおかまいなしに洋服を着ている。
空腹だろうが満腹だろうが関係なしに物を食べる。
夜は子の刻(午後11時〜午前1時頃の間)にならないと寝ない。
昼間はまともな仕事はせず、ただ歌を歌い球技をし、洋書を読むだけ。
女学生はみな金遣いが荒く、
彼女たちが一年間に使うお金で十六頭の水牛が買える。
女学生が田舎にしろ都会にしろ、どこかに行きたいと思ったら歩く必要はなく、
でっかい箱の中にもぐりこみさえすれば、
その箱が彼女たちを目的地まで連れて行ってくれる。
都会には各種各様大小とりまぜた箱があり、みな機械で動く。



★土手
原文は、<土貝>。
土手や堤防のことですが、南方方言で平地・平原の意味もあり、
『蕭蕭』の舞台は南方と思われますので、「庭の平なところ」
かなとも思うのですが、土手に囲まれている庭かなとも思います。
風俗が違うので、むつかしい。

★カサンドウ
原文は「烏梢蛇」=烏風蛇。
黒色、無毒、体長2 m 余。薬用になる。
クダを巻いている蚊取り線香を想像すればいいかもしれない。

★蕭蕭のお婿さんは三歳とありましたが、これはかぞえどしです。
すなわち、母親のおなかにいるときが一歳、
生まれてからお正月がきたら二歳です。
ですから、現代の感覚より少し幼い感じです。

★夏季休暇
原文は「水暇」です。
「水暇」という言葉はないのではないかと思うのです。
普通夏休みは「暑暇」といい、「シュージャア」というような発音です。
「水暇」は、「シュェイジャア」、発音が似ています。

★女学生についての講釈はもう少し続きます。
蕭蕭と女学生の境遇についての対比が描かれていると思います。
エピローグで、蕭蕭が抱いている赤ん坊につぶやくひとりごと、
女学生についての話は、その伏線になっていると思います。


つづく

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