紫陽花亭日乗

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刺客列傳 第五話 「荊軻」 承の段 1 

投稿者: ajisai110701 投稿日時: 2011/08/07 01:53 投稿番号: [274 / 735]
荊軻遂見太子、言田光已死、致光之言。太子再拝而跪、膝行流涕。
有頃而后言曰。丹所以誡田先生毋言者、欲以成大事之謀也。
今田先生以死明不言。豈丹之心哉。荊軻坐定。太子避席頓首曰。
田先生不知丹之不肖、使得至前敢有所道。此天之所以哀燕而不棄其孤也。
今秦有貪利之心、而欲不可足也。非盡天下之地、臣海内之王者、其意不厭。
今秦已虜韓王、盡納其地、又舉兵南伐楚、北臨趙王翦將數十萬之衆距①②、
而李信出太原・雲中。趙不能支秦、必入臣。入臣、則禍至燕。
燕小弱、數困於兵。今計舉國不足以當秦。諸侯服秦、莫敢合從。

①「サンズイ」+「章」     ショウ     地名
②「業」+「オオザト」     ギョウ     地名


荊軻遂に太子に見(まみ)え、田光の已に死せるを言ひ、光の言を致す。
太子再拝して跪(ひざまづ)き、膝行(しっこう)して流涕す。
頃(しばらく)有りて后(のち)言ひて曰く、

「丹の田先生に言ふ毋(な)かれと誡むる所以(ゆえん)の者は、
以て大事の謀(はかりごと)を成さんと欲すればなり。
今、田先生死を以て言わざるを明らかにするは、豈に丹の心ならんや」

荊軻、坐定む。太子、席を避け頓首して曰く、

「田先生、丹が不肖を知らず、前に至るを得、敢て道(い)ふ所有らしむ。
此れ天の燕を哀れみて其の孤を棄てざる所以(ゆえん)なり。
今、秦に利を貪(むさぼ)るの心有りて、欲、足(みた)す可からざるなり。
天下の地を盡(つ)くし、海内(かいだい)の王者を臣とするに非ざるよりは、
其の意厭かず。
今秦、已に韓王を虜(とりこ)にし、盡(ことごと)く其の地を納(い)れ、
又兵を舉げて南のかた楚を伐ち、北のかた趙を臨み、
王翦、數十萬の衆を將いて①ショウ・②ギョウに距(ふせ)ぎ、
而して李信、太原・雲中に出ず。
趙、秦を支える能(あた)わずんば、必ず入りて臣たらん。
入りて臣たらば、則ち禍、燕に至らん。
燕は小弱にして、數々(しばしば)兵に困(くる)しむ。
今計るに國を舉ぐるも以て秦に當たるに足らず。
諸侯秦に服して、敢て合從(がっしょう)する莫し」


つづく

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