紫陽花亭日乗

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刺客列傳 第五話 「荊軻」 起の段 10 

投稿者: ajisai110701 投稿日時: 2011/08/06 00:13 投稿番号: [263 / 735]
太子曰。願因先生得結交於荊卿。可乎。田光曰。敬諾。即起趨出。
太子送至門、戒曰。丹所報、先生所言者、國之大事也。願先生勿泄也。
田光俛而笑曰。諾。僂行見荊卿曰。光與子相善、燕國莫不知。
今太子聞光壯盛之時。不知吾形已不逮也。幸而教之曰。燕・秦不兩立。
願先生留意也。光竊不自外。言足下於太子也。願足下過太子宮。

太子曰く、願はくば先生に因(よ)りて荊卿に交を結ぶを得ん。可ならんか、と。
田光曰く、敬(つつし)んで諾す、と。即ち起ちて趨(はし)り出づ。
太子送りて門に至り戒めて曰く、
丹の報ずる所、先生の言う所は國の大事なり。
願はくは先生、泄(もら)すなかれ。
田光俛(ふ)して笑いて曰く、諾、と。
僂行して荊卿を見て曰く、光と子(し)と相ひ善きは、燕國知らざるはなし。
今、太子、光が壯盛の時を聞きて、吾が形の已に逮(およ)ばざるを知らず。
幸いにこれを教えて曰く、燕・秦兩立せず。
願はくは先生、意を留(とど)めよ、と。
光竊(ひそか)に自(みずか)ら外にせず。足下を太子に言う。
願はくは足下、太子を宮に過(よ)ぎれ。


太子は言った。「できましたら先生の仲立ちで荊卿と交際したいのですが。
よろしいか」と。

田光は、「たしかに承知いたしました」と答えた。
そして立ち上がりこ走りに出て行った。

太子は門まで送って来て田光先生を戒めて言った。
「わたしが告げたこと、先生がおっしゃったことは国の大事です。
どうか先生、口外なさいませんようお願いいたします」

田光は俯いて笑って言った。「承知しました」

そして背中をまるめて荊軻に会いに行き言った。
「わたしとあなたとの親交は燕の国で知らないものはいません。
太子は、わたしがまだ若く壯盛であった時のことのみを聞いて、
今は已にその当時の自分に及ばないことをご存知ありませんでした。
幸いにこのようなご指示をいただきました。

『燕と秦とは兩立できない。どうか先生、お考えください』と。

あなたはどう思っているか知らないが、
わたしの心の内では、あなたとは疎遠な仲ではありません。
そこであなたを太子に推薦しました。
どうか太子を宮殿に訪ねてもらえないだろうか」


つづく

680, 681
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