紫陽花亭日乗

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吹笛(すいてき)     杜甫

投稿者: ajisai110701 投稿日時: 2011/07/04 22:12 投稿番号: [14 / 735]
吹笛(すいてき)        杜甫(盛唐・712〜770)


吹笛秋山風月芿       吹を笛く   秋山   風月の芿きに
誰家巧作斷腸聲       誰家(たれ)か巧みに作す   斷腸の聲
風瓢律呂相和切       風は律呂を瓢(ひるがえ)して相和すること切に
月傍關山幾處明       月は關山に傍(そ)うて幾處(いくしょ)か明らかなる
胡騎中宵堪北走       胡騎   中宵   北走するに堪えたり
武陵一曲想南征       武陵の一曲   南征を想う
故園楊柳今揺落       故園の楊柳   今揺落す
何得愁中却盡生       何得(なんぞ)愁中に却(かえ)って盡く生ぜん

★「却」は、原文は、「去」の部分が「谷」


秋の山の麓、風も月も清らかなこの夜、風に乗って笛の音が聞こえてくる

いったい誰があのように上手に笛を吹いているのだろうか
その悲しい音色にはらわたもちぎれそうだ

風は笛の音律を四方八方に運び、笛の音の律と呂(りょ)、
風の音とがみごとな調和をなしている

月は今、あの国境(くにざかい)の山の近くに出ているが
どれくらいの範囲があの月明かりに照らされているだろうか
わたしの故郷も同じように照らしているだろうか

あの勇敢な異民族の騎馬武者たちでさえも、
真夜中にこの笛のしらべを聞いたなら、
故郷を想い、悲しみのあまり、北方へ逃げ出して行くのも当然なのだ

わたしもまたこの洞庭湖のあたりでこの笛の音を聞いている
そしてしみじみと遥か南にさすらいやってきていることを想う

故郷の柳は、今ごろ葉を落としているだろうが

どうしてわたしの悲しい心の中には、
柳の葉がことごとく生じてているように思えるのか
わたしの心の中は、折楊柳の曲の想いでいっぱいになってしまった


>誰家巧作斷腸聲       誰家(たれ)か巧みに作す   斷腸の聲<


★死の少し前、洞庭湖北西の揚子江沿いのキ州という所にしばらく
滞在していたときの詩。キ州は今の湖南省常徳県。
揚子江沿い、洞庭湖の近くにあるまち。

★詩作にあたって、唐代の笛の音は悲しく聞こえる、ということが前提。

★律呂・・・東洋音楽の音律。音階。
「律」と「呂」と二種類あり、それがまたそれぞれに音階を持つ。

★關山
①関所のある山   →   国境の山
②故郷を離れている者にとっての故郷の山

★胡・・・漢民族以外の異民族の象徴。
モンゴル・トルコ・チベット等、乗馬が得意な民族。
反乱を起こしたい勢力がひきこんだり、
あるいは侵入してきたりして漢民族の居住地域に入り込んだ。

★中宵・・・真夜中

★武陵・・・桃源郷の村。常徳のあたり。平仄その他の関係で厳密に地名を
入れることができない場合、近くの他の地名を使うことがある。

★故園・・・ふるさと

★揺落・・・草木の葉が枯れ、落ちること。

★楊柳・・・別離には柳の枝を折りとり、旅立つ人に贈るならわしがあった。
柳は、茎を水に漬けておくだけで根がでるほど生命力が強いといわれる。
悲笛に「折楊柳」の曲を連想する。

★「折楊柳」・・・旅行く人を見送る曲。

★何得愁中却盡生       何得(なんぞ)愁中に却(かえ)って盡く生ぜん

何得・・・二字で「なんぞ・どうして」。
「得」は、二字にするためにつけてあるだけ。

何得(なんぞ)愁中に却(かえ)って盡く生ずるを得し

と読むこともできるが、意味は同じ。



★書き下し・解釈ともにあじさいです。

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