紫陽花亭日乗

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提婆達多 25

投稿者: ajisai110701 投稿日時: 2011/07/16 21:10 投稿番号: [108 / 735]
提婆達多はときおり自分を訪う紅顔の太子アジャセに往時の自身を見た。
すでに齢七十をこえた提婆達多はこの王子に恋をした。
提婆達多の恋は絶望的であり、彼はそれをおくびにも出すことはできなかった。
彼は最後まで「聖僧」を装わねばならなかった。

提婆達多はアジャセの心の深奥に潜んでいる父王ビンビサラへの大いなる不満を看破した。
提婆達多は慎重に婉曲に、アジャセを指嗾(しそう)した。
長いあいだの焦慮と躊躇ののち、アジャセは終に父王ビンビサラを幽閉し
自らマガダ国の王座についた。

アジャセは父王ビンビサラを幽閉し餓死させた。
それによって仏陀の教団は一朝にしてビンビサラの大きな支援を失ってしまい、
これまで仏陀に属していた人々は僧俗の別なく日に日に提婆達多のほうへと遷ってきた。

しかしながらこの提婆達多の優勢はあまり永くは続かなかった。
提婆達多は仏陀の慈悲にかうるに人間に対する烈しい憎悪をもっていた。
彼は不断の叱責者、呪詛者であった。

人々の心は悩んだ。

人々の心はようやく彼をはなれた。
人々がアジャセに対して窃(ひそか)に抱いていた不快も間接に彼に禍した。
多くのものは提婆達多をすてて仏陀に復帰した。
一個異才ある人間より仏陀のほうへ。

人々のかような仕打はますます提婆達多をして人間を呪わしめた。
彼はもはや衆生の済度のために現れた仏陀にあらずして、
そを滅ぼさんがために来れる鬼神のごとくにみえた。
そしてそれがいよいよ提婆達多を孤独にした。
今や提婆達多のもとに残っていたのは、四人の高弟と、
その他少数の弟子および俗信徒と、アジャセとその追従者ばかりであった。


「私は結局敗北者であったか」
「私は敗北者として死なねばならないのか」

実際彼の健康は近ごろ急に衰えた。
さしもに強壮であった彼の肉体を不断の煩悩が焼きつくしてしまった。
彼は自分の死期の遠くないのを予期した。
この時アジャセの訪問のみが提婆達多にとって唯一の慰藉であった。
提婆達多のアジャセへの恋はいやました。


つづく

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◆このアジャセの物語は前世よりの因縁や予言もからんだ
「王舎城の悲劇」として有名な逸話です。
この物語は浄土三部経のひとつ
「観無量寿経」の冒頭の部分において語られています。
『提婆達多』ではかなり詳細な記述がありますが、ここでは割愛
いたしますが、これが終りましたら次にUPしようと思っています。
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