紫陽花亭日乗

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提婆達多 23

投稿者: ajisai110701 投稿日時: 2011/07/16 20:55 投稿番号: [106 / 735]
提婆達多はいよいよ公然独立の決心を固めた。
しかしながら彼の老年と順境とは彼の気分をかわらせた。
――彼はこの時已に七十歳をこえていた――

提婆達多はこの最後の戦をはじめるまえに、
出来ることならひとたび仏陀と和解を試みたいと思った。
それは実に彼が数十年来の復讐計画を全く放棄して、
美しい関係を、浄き生活をはじめたいという衷心よりの願であった。

と同時にまたもはやいくばくもない余命を己れ勝利者たり――
むしろ彼のほうに有利らしく見えた実際の形勢が彼にそういう自信を与えた。
しかも敵に対してかかる寛容を示し得た心の満足を感じつつ、
平和に得意に送りたいという利己的な望もあった。

そこで彼は最後の降服状を渡すべく衣服をととのえ今一度仏陀のもとを訪ねた。
この際においても降服する者は仏陀であらねばならなかった。


「世尊よ、あなたはもうよほど弱られたように見える。
弟子たちのために説法なさるのも御苦労のことと思う。
今後は私がかわって教団を指導しましょう。
あなたはただ禅定を修してひとり静に法を楽しまれるがよろしい」

仏陀は言下に拒絶した。

「私は舎利沸(シャリプトラー)や目<牛建>羅夜那(マーウドガルヤーヤナ)
(目連尊者のこと)にさえ任さずにいる。
いわんやお前のようなものに任すことができると思うか」


これは提婆達多がかつて受けたと称する屈辱に十倍するものであった。
提婆達多の面目は大衆の前でめちゃめちゃに踏みつけられた。
彼は憤怒に蒼ざめた。仏陀にとびかかるかと見えた。

が、自ら威儀を損せざらんがためにじっと怒を抑えた。
そして黙然と仏陀を拝してしずかに右繞三匝(ウニョウサンソウ)して去った。


すべては終った。
提婆達多は断乎たる決心と自信とをもってシッタルタと戦おうとした。
布薩の日の夕べ、提婆達多は仏陀の教団に乗り込んだ。
この日、多くの人々が仏陀の説法を聴聞せんとて集まり
仏陀の姿があらわれるのを待っていた。
仏陀と高弟たちは不在であった。

提婆達多は仏陀のために設けられた高座の上にすっくと立った。
提婆達多の四人の弟子が左右に居並んだ。

提婆達多は音吐朗々と五事の厳則を宣言し、そしてこう言った。

「我らは今日唯今よりシッタルタの教団を脱する。
我に従わんとする者は来たれ」

五百の比丘が提婆達多に従った。残った者はわずかに六十。


つづく

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