提婆達多 ⑲
投稿者: ajisai110701 投稿日時: 2011/07/15 20:54 投稿番号: [102 / 735]
仏陀は若きシッタルタとして光明を求めて出でて走ったその路を、
その求めたる光明そのものとして帰ってきた。
しかしながら仏陀の姿は、凡俗の眼にとっては、精進・禁欲生活に]
痩せたる、その身に襤褸をぶらさげたみすぼらしき一個の乞食僧であった。
そしてすでに仏陀はシッタルタではなかった。
昔日のシッタルタにあらずして、苦多く涙多かりし幾年月ののちに、
かかる変わりはてたる境涯において、王をはじめ一族近親の人々その他
臣民を迎えていささかの喜びもなく、いささかの悲しみもなく、
これらの愚なる人々に対する慈悲愛憐のほか何ら感情の動揺なき
一個高潔なる仙士であった。
王をはじめ人々は不満であった。
がともあれ、翌日になってシュットーダナ王は、
仏陀と仏陀に従う多くの比丘衆を宮殿に招いた。
一族宮臣たちは悉く出て仏陀を出迎え、仏陀を拝した。
だが仏陀が食をおわっても、ひとりヤショダラのみが姿を見せなかった。
ただラーフラのみが出てきて、仏陀の法衣にすがって
「お弟子にしてくださいしてください」
とくりかえした。ラーフラはそれを母に教えられてきたのである。
王はヤショダラのおそいのを怪しみ侍女を迎えにやった。
侍女が顔色をかえて戻ってきてヤショダラの自刃を告げた。
ヤショダラは床のうえに血にまみれて倒れていた。
仏陀は二人の弟子とともに平然として屍骸のまえに立った。
人々は驚愕のあまり呆然として徒らに目をみはるのみであった。
ひとり提婆達多は狂気のごとくかけより、人目もはじず抱きつき、
血みどろの屍骸に顔を埋めて声をあげて泣いた。
人々もみな泣いた。聖衆(ショウジュ)のほかは皆。
そのとき、提婆達多よりも熱い涙を流すものはなかった。
まことにヤショダラは彼が真実の心を捧げ得たる最初のものであった。
そして最後のものとなるであろう。
彼は幾十年の美しき宿をさりつつある彼女の魂を堰きとめようとする
かのようにひしとその屍骸を抱いて涙のかぎり泣いた。
「ヤショダラ。卿(おんみ)はなぜ私をおいて死んだのか」
つづく
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これは メッセージ 101 (ajisai110701 さん)への返信です.
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