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チャングムの戦い 大江戸捜査網⑮

投稿者: toapanlang 投稿日時: 2006/01/23 11:16 投稿番号: [1651 / 6952]
  次の日。
「おはようございます。昨晩、唐津藩下屋敷で騒動があったらしいですよ」
  朝から根岸宅にやってきた太田が情報を持ってきました。
「武芸の稽古だ、って門番は言ってましたが、剣戟の音が響いていたらしいです。これはなにかありましたね」
「そうでしたか。唐津藩ですか」
  考え込む三冬。
「ええそうです。あれ?大先生と若先生は?」
「小兵衛どのはご老中の屋敷へ、大治郎殿は医者に行っております」
「根岸殿は出仕中ですね・・・チャングムさん、様子はどうです?」
「ええ、昨日と違って元気になりましたわ。吹っ切れたのかもしれません」
  胸をなでおろす太田。

「檀園先生、なぜ帰国しないのか、そろそろ教えてください」
  チャングムの強い語気に、金は目をつぶって一呼吸置いた後、口を開きました。
「私は疲れたのだよ」
  意外な言葉にチャングムは虚を衝かれます。
「宮廷は、私を朝鮮一の画家として栄誉や富などあらゆるものを与えてくれた。しかし私は、好きな絵を好きなときに好きなだけ描く自由を失った」
「・・・」
「これでは画家金弘道はおしまいだ。そう思って宮廷を去り、遠く東海を越えたこの地に来たんだ。国を捨てたつもりではないんだ」
「・・・」
「頼む。私をそっとしておいてくれないか?」
  源内の死で涙腺がゆるくなっているチャングムは、涙をこらえて別れの言葉を口にします。
「・・・わかりました。先生がそうおっしゃるなら・・・けど忘れないでください。先生は、立派な朝鮮人です。いつまでも君子でいてください」
「ありがとう、チャングム。チョソンに居ようがイルボンに居ようが、私は人(サラン)だし、君子(クンジャ)のつもりだよ」
  微笑んで懐をまさぐる金。手斧を取り出し、自分の髪を一握切り取ります。
「これを形見代わりに渡すから、ソウルで墓をつくるときに埋葬してほしい」
そういって腰を上げます。髪を受け取ったチャングムは門まで見送ります。
「私はこの江戸で描きたい絵を描くんだ。それじゃ、安寧ヒガセヨ」
  よほど気に入ったのかサラン、クンジャ、とつぶやきながら金は歩き出しました。輝き始めた太陽のなかに金の姿が消えるまでチャングムは立ち尽くすのでした。

  「サラン、クンジャ」が口癖になってしまった金は、後年、日本風に訛った「サランクンジャ」→「写楽じゃ」を筆名にしました。謎の画家東洲斎写楽の正体は檀園こと金弘道だったのです。  

  もうちょっと続きます。
  なお、金の台詞、
「宮廷は、私を朝鮮一の画家として栄誉や富などあらゆるものを与えてくれた。しかし私は、好きな絵を好きなときに好きなだけ描く自由を失った」
  は、『チャングムの誓い』最終回のチャングムの台詞が下敷きです。
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