隠州視聴合紀「州」の用法と解釈 (5/7)
投稿者: te2222000 投稿日時: 2005/05/30 05:45 投稿番号: [9652 / 18519]
【3.5】好事者此州に雉の無事を愁て(周吉郡・蛸木浦)
最後は巻二・周吉郡・蛸木浦の節の記述です。節の冒頭から引用します。
−−−−−−−−−−−−
蛸木浦は申酉の濱邊にして左は山崎遠く出て糠谷の西より皆石山の山崎にて浦につゞいて重れり
右は又大岩ありて波に出没す
其につゞける島崎に石を疊んで小社あり
其仲に松島あり
上に松生て樹間に荒園あり
長事二町ばかり
昔好事者此州に雉の無事を愁て試に雲州より雌雄を渡して此に放つ
一年を經て終に亡と云
[訳]
蛸木浦は西北西の浜辺で左は山の岬が遠く張り出して、糠谷の西から皆、石の山の岬になっており、重なるように浦まで続いている。
右はまた大岩があって波に出たり没したりしている。
それに続く島の岬に石を畳んで小さな社がある。
その中に松島という島がある。
上に松が生えて、木の間に荒れた園がある。
長さは200メートル程だ。
昔、好事家がこの州に雉のいないことを愁えて、試しに雲州から雄雌を運んできてここに放した。
しかし一年後には、とうとう死んでしまったという。
−−−−−−−−−−−−
ここにも「此州」という言葉が出ています。これは何を指すのでしょうか。
まず前節と同様に「隠州」を指す可能性があります。それから、すぐ前に「松島」という言葉が出てくるので(蛸木浦にある小島のことで、竹島=独島のことではありません)、それを指している可能性もあります。
しかし、松島を指すとすると、好事家が愁えた理由が分かりません。隠州の他の場所に足を運べば雉は見られるのですから。さらに、わざわざ雲州から雉を取り寄せたことも理解に苦しみます。
無理やりこじつければ、隠州に雉はいるけれども、好事家はこの松島に特に思い入れがあって、松島に雉がいないのを残念に思い、なおかつ、何らかの理由で隠州の他の地域からではなく、雲州から雉を取り寄せたということになります。
解釈として不可能ではありませんが、好事家が松島に寄せる思い入れやわざわざ雲州から取り寄せた理由を何も説明せずにこのような記述をするのは、とても不自然です。「此州」を隠州と考えればそのような不自然さは全くありません。したがって、ここの「此州」もまた隠州を指すと思ってよいでしょう。
さて、この用例で重要なのは、先立つ文中に「隠州」という言葉が現れないけれど、「松島」という言葉は出てくることです。そのような文脈でも「此州」が隠州の意味で使われています。
斎藤豊仙はここで「此州」でなく「隠州」と書くこともできた筈です。それを「此州」と書いたということは、少なくともこの文脈で「此州」という表現を使うことが不適切だとは思わなかったということになります。もっと具体的に言えば、この文脈で「此州」という言葉が、松島のことと勘違いされる恐れはないと判断したことになります。
推測を重ねているので断言はできませんが、斎藤豊仙は島を指すのに「此州」という言葉は使えないと思っていた可能性が高い、と私は考えます。
【3.6】「州」の用法のまとめ
「州」の用法について分かったことをまとめます。
・「州」は行政区画としての国の意味でのみ使われており、単なる島の意味では使われていない。
・先立つ文中で隠州についての言及がないにも関わらず、「此州」が隠州の意味で使われる個所がある。
・直前に島についての言及があるにも関わらず、「此州」がその島のことではなく、隠州の意味で使われる個所がある。
(続く)
最後は巻二・周吉郡・蛸木浦の節の記述です。節の冒頭から引用します。
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蛸木浦は申酉の濱邊にして左は山崎遠く出て糠谷の西より皆石山の山崎にて浦につゞいて重れり
右は又大岩ありて波に出没す
其につゞける島崎に石を疊んで小社あり
其仲に松島あり
上に松生て樹間に荒園あり
長事二町ばかり
昔好事者此州に雉の無事を愁て試に雲州より雌雄を渡して此に放つ
一年を經て終に亡と云
[訳]
蛸木浦は西北西の浜辺で左は山の岬が遠く張り出して、糠谷の西から皆、石の山の岬になっており、重なるように浦まで続いている。
右はまた大岩があって波に出たり没したりしている。
それに続く島の岬に石を畳んで小さな社がある。
その中に松島という島がある。
上に松が生えて、木の間に荒れた園がある。
長さは200メートル程だ。
昔、好事家がこの州に雉のいないことを愁えて、試しに雲州から雄雌を運んできてここに放した。
しかし一年後には、とうとう死んでしまったという。
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ここにも「此州」という言葉が出ています。これは何を指すのでしょうか。
まず前節と同様に「隠州」を指す可能性があります。それから、すぐ前に「松島」という言葉が出てくるので(蛸木浦にある小島のことで、竹島=独島のことではありません)、それを指している可能性もあります。
しかし、松島を指すとすると、好事家が愁えた理由が分かりません。隠州の他の場所に足を運べば雉は見られるのですから。さらに、わざわざ雲州から雉を取り寄せたことも理解に苦しみます。
無理やりこじつければ、隠州に雉はいるけれども、好事家はこの松島に特に思い入れがあって、松島に雉がいないのを残念に思い、なおかつ、何らかの理由で隠州の他の地域からではなく、雲州から雉を取り寄せたということになります。
解釈として不可能ではありませんが、好事家が松島に寄せる思い入れやわざわざ雲州から取り寄せた理由を何も説明せずにこのような記述をするのは、とても不自然です。「此州」を隠州と考えればそのような不自然さは全くありません。したがって、ここの「此州」もまた隠州を指すと思ってよいでしょう。
さて、この用例で重要なのは、先立つ文中に「隠州」という言葉が現れないけれど、「松島」という言葉は出てくることです。そのような文脈でも「此州」が隠州の意味で使われています。
斎藤豊仙はここで「此州」でなく「隠州」と書くこともできた筈です。それを「此州」と書いたということは、少なくともこの文脈で「此州」という表現を使うことが不適切だとは思わなかったということになります。もっと具体的に言えば、この文脈で「此州」という言葉が、松島のことと勘違いされる恐れはないと判断したことになります。
推測を重ねているので断言はできませんが、斎藤豊仙は島を指すのに「此州」という言葉は使えないと思っていた可能性が高い、と私は考えます。
【3.6】「州」の用法のまとめ
「州」の用法について分かったことをまとめます。
・「州」は行政区画としての国の意味でのみ使われており、単なる島の意味では使われていない。
・先立つ文中で隠州についての言及がないにも関わらず、「此州」が隠州の意味で使われる個所がある。
・直前に島についての言及があるにも関わらず、「此州」がその島のことではなく、隠州の意味で使われる個所がある。
(続く)
これは メッセージ 9651 (te2222000 さん)への返信です.
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