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三・一運動論 30、31

投稿者: tell_me_honto_gou 投稿日時: 2004/07/24 09:43 投稿番号: [1456 / 7270]
したがって、いかに本当に政治を理解する文官系統の者が、いかに適切なる施設を考案しても、軍閥系統の気に入らなければ全然これが実施を要するの途は無い。これ朝鮮の官吏中相当見識ある者を網羅せざるに非ずして、しかも事実驚くべき非文明の政治が行われて居った所以である。而して今や、いわゆる憲兵制度の撤廃に因ってこの悪弊を取除かんとして居る。吾々は、少なくてもこの点に於て、朝鮮の為に、否、日本の為に、現内閣の勇断に感謝を表するを至当と認むる。

  総督を、天皇直隷の地位より貶(おと)して宰首の指揮監督の下に置いたことは、亦これと関聯して朝鮮統治上の一大改善である。天皇に直隷するを改めて、宰首を通して上奏するの関係にしたのは、総督の面目に関し、又朝鮮の不名誉であると云って、過般この改正の撤回を求めた者が朝鮮貴族中に有ったと云うことであるが、これはまことに噴飯の至りである。武官総督が天皇に直隷して内閣の指揮監督の外に在ったことが、従来憲兵政治を可能ならしめたものであった。植民政策を文明的に指導する点から観ても、又内閣の政治を内閣の手に統一するの必要から観ても、、総督は――独り朝鮮に限らず、台湾でもどこでも――必ずや内閣総理大臣の指揮の下に立つべきものである。日本では殊に軍事上に於て内閣を離れた天皇直隷の諸機関甚だ多く、これに因っていろいろ軍務を国民の容喙の外に置き、全然専門家の手に独占するの便宜はあらんも、国務統一を害するの弊これより甚だしきはなく、かかる悪制は、他の諸国に於てあまりその例を見ざるところである。いわんや植民政治の如き、純然たる民事事務に於てをや。従来の制度が、総督を以て必ず武官ならざるべからずとしたのは、驚くべき不当の規定であった。もっとも武官では悪いという理屈もない。植民地統治者として必要の才能があれば、文武いずれでも構わないが、要はただ一国全体の施政方針と歩調を合すべきことである。この点に於て今度の改革は、少くとも


制度上まさにしかあらねばならぬ当然の軌道に復帰したものと云わなければならない。

  しかし制度だけではまだ安心が出来ない。更にこれが適当に運用せらるるか否かが問題であるが、これは統治の局に当る者の人選と、統治方針決定の結局の根柢たるべき民心の趨嚮にかかる問題である。而して一般民心の趨嚮に就ては、近時だんだん開発せられて居るようであるが、しかしこの点は今吾々の直接問題とする所でないから略そう。局に当る者の人選に就ては、総督としては斉藤[実]海軍大将*、政務総監として水野[錬太郎]前内相**の任命に於て、予輩は、理想的とは云わないが、ほぼ統治の改革に関する前途の光明を期待せしむるに足るべき人選たる事は疑わない。たまたま武官なるの故を以て斉藤大将を忌避せんとするのは、同大将の人格、経歴並びにいわゆる軍閥との関係を思わざるの俗論である。もしそれ水野前内相が行政官として並びに学者として相当令名を博して居った経歴に顧る時、吾々はしばらく彼等をして自由にその手腕を振わしめて見たいという感を抱かざるを得ない。

  *斉藤は予備役であったものをとくに現役復帰の上、総督に任命された。一九二七年までおよび二九―三一年在任。その間いわゆる文化政治については、中塚明「日本帝国主義と朝鮮」(『日本史研究』八三号)参照。

  **政友会系の官僚。一九二二年六月再び内相となるまで在任。

  いずれにしても予輩は、朝鮮統治の開発に一新紀元を劃するものとして、新総督府と新政務総監とを歓迎する。細かい施設はゆるゆるこれを将来に観ることにして、ただ差当り彼等に希望したいのは、何を措いてもまず、内鮮両民間のあらゆる差別的待遇を撤廃せられんことである。言論の自由を尊重し、少くとも内地以上に無用の拘束を為す事を避け、殊に朝鮮人には出来るだけ発言の機会を与えられんこと


である。更に進んで形式上だけでなく、本当に朝鮮人の開明を図り、彼等に教育を受くるの十分の機会を提供せられんことである。一言にして云えば、朝鮮民族をして朝鮮民族として十分発達するを得しめ、この基礎の上に彼等が我々の真箇頼もしき友人たるように導かれんことである。

(『中央公論』大正八年九月号)
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