つづき
投稿者: bosintang 投稿日時: 2003/12/29 17:07 投稿番号: [1739 / 3669]
「そのころの日本というのは,朝鮮人というのを虫けら以下にあかつっておったけんど,わしゃ,ばかたれめ,いまに思い知らされるぞと,ひそかに思っとったです。金が死んでわしはもう学問をする気なんぞこれっぽちもなくなってしもうたです。金の魂にさそわれたのか,わしゃ朝鮮に行きましたわい。東洋拓殖会社というのが社員を募集しておったんで,なにをする会社かよう調べもせんと,ただ朝鮮に行ける,朝鮮で働ける,それだけで応募してしもたんです。そのとき,わしゃちょっとでも罪ほろぼしをせにゃならんと思うとったんでしょう」
小谷先生はからだをかたくしてきいていた。身一つ動かしてもわるいような気がした。
「わしはその会社の量地課というところにまわされたです。しばらくしてその課がなにをするところか,じきにわかったです。わしゃ日本人の悪ぢえにびっくりしたですわい。なんにことはない朝鮮人をごまかして,人の土地を自分のものにしてしまうちゅうことですわい。その当時,朝鮮の農民は字の読めん人が多かったですが,そういう人におっそろしくむずかしい申告書をかかせますんじゃ。あたりまえのことですけんど,ほとんどなにもかけませんわい。すると所有者不明白な土地ということにして,没収してしまいますんじゃ。そういう土地をタダみたいな値で払いさげてもらって,日本人の移民に売りつける仕事をその会社はやっとったわけですが,おしまいのころには,ごまかす方の仕事をひきうけてやっておったようです。わしゃ,からくりがわかると,むしろその会社にはいったことをよろこびました」
バクじいさんはそこでことばをきった。
「どうしてですか」と小谷先生はたずねた。
「わしゃ,すこしでも朝鮮人の味方をして,とりあげられる土地をすくなくしてやろうと思ったんですわい。けんど,それはあまい考えでしたわい。三カ月ほどして,わしゃ憲兵隊にしょっぴいていかれました。ほんとうにわしは神様をのろいますじゃ。ほんの三カ月ほど朝鮮の人の味方をしたばっかりに,わしは朝鮮独立の運動をしている人を,二,三人知ってしまったんです。憲兵隊の拷問は警察のなん倍もなん倍もひどいもんですわい。先生のような若い女がきいたら,きくだけで気絶してしまいますやろ。わしは恐ろしいだけでなしに,人には言えんはずかしい拷問を受けたです。肉体より先に心がずたずたになってしもうたです」
バクじいさんはそのときの苦痛を思い出したのか,じっと眼をとじた。小谷先生は心の中でひめいをあげた。
「人間ちゅうもんは,ほんとうによわいもんですわい。わしはたった三日ともたんで,なにもかもしゃべってしもうたです。それから二日ほどして,わしゃ憲兵に自分のしゃべった結果を見せられました。さあ十二,三げんも家があったんでしょうか。後かたもなく焼き払われており,黒こげの死体があちこちにころがっておったです。小さな死体もありましたから,女,子どものようしゃなく,みな殺しだったんでありましょう。人間ちゅうもんはじき悪魔になれると,さっきいいましたが,あれはわしにいうたことなんですわい。その死体を見て,たいへんなことをしてしもたと思うより先に,これで自分の命がたすかると,吹き出てくるよろこびに身をまかせておったんですわい。わしは金にどういうてあやまればいいですか,金のおっかさんにどういうてあやまればいいですか」
小谷先生はからだをかたくしてきいていた。身一つ動かしてもわるいような気がした。
「わしはその会社の量地課というところにまわされたです。しばらくしてその課がなにをするところか,じきにわかったです。わしゃ日本人の悪ぢえにびっくりしたですわい。なんにことはない朝鮮人をごまかして,人の土地を自分のものにしてしまうちゅうことですわい。その当時,朝鮮の農民は字の読めん人が多かったですが,そういう人におっそろしくむずかしい申告書をかかせますんじゃ。あたりまえのことですけんど,ほとんどなにもかけませんわい。すると所有者不明白な土地ということにして,没収してしまいますんじゃ。そういう土地をタダみたいな値で払いさげてもらって,日本人の移民に売りつける仕事をその会社はやっとったわけですが,おしまいのころには,ごまかす方の仕事をひきうけてやっておったようです。わしゃ,からくりがわかると,むしろその会社にはいったことをよろこびました」
バクじいさんはそこでことばをきった。
「どうしてですか」と小谷先生はたずねた。
「わしゃ,すこしでも朝鮮人の味方をして,とりあげられる土地をすくなくしてやろうと思ったんですわい。けんど,それはあまい考えでしたわい。三カ月ほどして,わしゃ憲兵隊にしょっぴいていかれました。ほんとうにわしは神様をのろいますじゃ。ほんの三カ月ほど朝鮮の人の味方をしたばっかりに,わしは朝鮮独立の運動をしている人を,二,三人知ってしまったんです。憲兵隊の拷問は警察のなん倍もなん倍もひどいもんですわい。先生のような若い女がきいたら,きくだけで気絶してしまいますやろ。わしは恐ろしいだけでなしに,人には言えんはずかしい拷問を受けたです。肉体より先に心がずたずたになってしもうたです」
バクじいさんはそのときの苦痛を思い出したのか,じっと眼をとじた。小谷先生は心の中でひめいをあげた。
「人間ちゅうもんは,ほんとうによわいもんですわい。わしはたった三日ともたんで,なにもかもしゃべってしもうたです。それから二日ほどして,わしゃ憲兵に自分のしゃべった結果を見せられました。さあ十二,三げんも家があったんでしょうか。後かたもなく焼き払われており,黒こげの死体があちこちにころがっておったです。小さな死体もありましたから,女,子どものようしゃなく,みな殺しだったんでありましょう。人間ちゅうもんはじき悪魔になれると,さっきいいましたが,あれはわしにいうたことなんですわい。その死体を見て,たいへんなことをしてしもたと思うより先に,これで自分の命がたすかると,吹き出てくるよろこびに身をまかせておったんですわい。わしは金にどういうてあやまればいいですか,金のおっかさんにどういうてあやまればいいですか」
これは メッセージ 1738 (bosintang さん)への返信です.
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