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特攻隊員の母、鳥浜トメ 蛍帰るその一

投稿者: ninnikumanx 投稿日時: 2007/07/29 15:57 投稿番号: [8576 / 9207]
http://www2s.biglobe.ne.jp/~nippon/jog/jog_index_frame.htm

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________Japan On the Globe(253) 国際派日本人養成講座_______
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_/ 人物探訪: 特攻隊員の母、鳥浜トメ〜蛍帰る
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_/ _/_/_/   明日は死に行く若き特攻隊員たちにしてやれる
_/ _/_/ 事は、母親になってやる事しかない、、、
_______H14.08.11_____38,953 Copies_____533,246 Views________

■1.蛍帰る■

  ラジオが9時を告げて、ニュースが始まった。その時、わず
かに開いた表戸の隙間から、一匹の大きな源氏蛍が光る尾を引
きながら、すーと店に入ってきたのであった。娘たちはほとん
ど同時に気がついた。

お母さーん、宮川さんよ。宮川さんが帰ってきたのよ。

  娘たちの叫びに、奥から出てきたトメは娘たちの指さすほう
を見た。暗い店の中央の天井。その梁にとまって明るく光を放
っている蛍を見つけた時、トメは息が止まるかと思った。部屋
の隅にいた兵士たちも集まって、蛍を見上げた。「歌おう」と
だれかが言った。みな肩を組み、涙でくしゃくしゃになりなが
ら、「同期の桜」を歌った。歌はトメの好きな第3連に進んだ。

貴様と俺とは   同期の桜
離れ離れに   散らうとも
花の都の   靖国神社
春の小枝で   咲いて逢うよ

■2.おれ、この蛍になって帰ってくるよ。■

  昭和20年6月6日、鹿児島県は薩摩半島の中程、知覧町に
ある富屋食堂でのことである。知覧で出撃を待つ特攻隊員たち
はこの食堂に出入りし、なにくれと世話をやく女主人鳥浜トメ
を母親のように慕っていた。明日は死に行く少年たちのために
出来ることと言ったら、母親代わりになって優しく甘えさせて
やるしかない、そう思ったトメは私財をなげうって、特攻隊員
たちに尽くしていた。

  その前日、6月6日は宮川三郎軍曹の20歳の誕生日であっ
た。トメは心づくしの料理を作って、誕生日を祝うと同時に、
明日に控えた出撃のはなむけとした。途中、空襲警報が鳴って、
みなで防空壕に入る。防空壕の中で、宮川は幽霊のまねをして、
トメの娘礼子たちを怖がらせた。

  防空壕を出ると、星のない暗い夜がそこにあった。街の灯り
も灯火管制のために消されている。食堂の横には小川が流れ、
藤棚とベンチがしつらえてある。漆黒の闇の中、小川の上を大
きな源氏蛍が飛び交っていた。宮川の声がした。

  小母ちゃん、おれ、心残りのことはなんにもないけれど、
死んだらまた小母ちゃんのところに帰ってきたい。そうだ、
この蛍だ。おれ、この蛍になって帰ってくるよ。

「ああ、帰っていらっしゃい」とトメは言った。そうよ。宮川
さん、蛍のように光輝いて帰ってくるのよ、と心の中で言った。
宮川は懐中電灯で自分の腕時計を照らして言った。

  9時だ。じゃあ明日の晩の今頃に帰ってくることにする
よ。店の正面の引き戸を少し開けておいてくれよ。

「わかった。そうしておくよ。」とトメが答えた。

  おれが帰ってきたら、みんなで「同期の桜」を歌ってく
れよ。それじゃ、小母ちゃん。お元気で。

  トメには別れの言葉がない。死にに行く人を送る言葉なんて
この世にあるのだろうか。宮川軍曹の後ろ姿は暗い夜道に消え
ていった。
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