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盧溝橋事件27 攻撃を停められた大隊

投稿者: kireigotowadame 投稿日時: 2010/07/22 18:31 投稿番号: [514 / 2250]
寺平忠輔著 『日本の悲劇   盧溝橋事件』 読売新聞社刊
125〜126p


《 この日朝五時過ぎ、一文字山から竜王廟方向に向って攻撃前進を起した
一木大隊は、朝露を踏んで一進一止の前進を続けた。

ああ本当にまずい事をしゃべったもんだ。桜井顧問、いまごろはもうあの事を
中国側に話しただろうなあ!   敵はもう堤防上にはいないかもわからない。

そうだったら、不法射撃の根拠は全然なくなってしまうし、差し当り抜いた刀のやり場に
困ってしまう   −   大隊長はさきほどから、ひとりその事ばかり焦 (あせ) っていた。



ところが第一線部隊が竜王廟の堤防前、四百メートルに達したころ、見ると前方堤防の
線には、点々灰色の敵兵が陣地から、頭を出したり引っ込めたりしているではないか。

これを見た大隊長は、しめたッ、いるいるッ、まだいるぞッ!
敵は明瞭に二十九軍の正規兵だッと躍 (おど) り上ってよろこんだ。

敵翼包囲の清水中隊も竜王廟の北方、境防の線に続々進出している最中である。
―   敵との距離もいよいよ近づいてきたぞ。

ここいらでボツボツ攻撃を開始してもよかろう   ―
一木大隊長は本部の書記をふり返った。



「歩兵砲隊射撃開始!」 砲隊連絡係の阿部升蔵曹長が、
それを後方に逓伝 (ていでん) させた。

「歩兵砲隊!   射撃開始!」 逓伝の声が草原の上を、吹から次へと伝わって行く。
だがしかし、歩兵砲は一向射撃を開始しようとしない。

大隊長の心は焦 (い) ら立って来た。とうとう怒気を発して

「歩兵砲はいったい、なにをぐずぐずしているんだッ!
射撃準備はもうとっくの昔、出来ていたはずじゃないか、連絡係も連絡係だ。

命令が徹底するまで、なぜ何度も何度も連絡せんのだッ!
オイ、曹長!   自分でとんで行って砲隊長に連絡して来いッ」



その時、歩兵砲隊の伝令が地隙を縫い、コマ鼠のように大隊長の方にとんで来た。

「大隊長殿、歩兵砲隊長報告、ただいま一文字山に、連隊長代理森田中佐殿が見えて
おります。射撃開始の件は森田中佐殿が、絶対いかんといって中止を命ぜられましたッ」

「そりやあいかん。森田中佐は情況の変化をご存知ないんだ。小岩井中尉、
とんで行って情況を報告して来い、そして直ちに射撃を開始させるんだ!」

小岩井中尉はまっしぐらに一文字山に向って駆け出して行った。
その直後、荒田中尉がひょっこり顔を出した。

「大隊長殿、荒田中尉、ただいま北京から戻って参りました。森田中佐殿と同行して
参りましたが、中佐殿はいまから不拡大交渉を開始するといっとられます。」


つづく
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