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宮沢賢治のビヂテリアン大祭_26

投稿者: capt_paul_watson 投稿日時: 2008/04/01 21:32 投稿番号: [18737 / 63339]
陳氏は嵐のやうな拍手と一諸に私の処へ帰って来ました。私が陳氏に立って敬意を示してゐる間に演壇にはもう次の論士が立ってゐました。

「諸君、しづかにし給へ。まだそんなによろこぶには早い。なぜならビヂテリアン諸君の主張は比較解剖学の見地からして正に根底から顛覆するからである。見給へ諸君の歯は何枚あります。三十二枚、さうです。でその中四枚が門歯四枚が犬歯それから残りが臼歯と智歯です。でそんなら門歯は何のため、門歯は食物を噛み取る為臼歯は何のため植物を擦り砕くため、犬歯はそんなら何のためこれは肉を裂くためです。これでお判りでせう。臼歯は草食動物にあり犬歯は肉食類にある。人類に混食が一番適当なことはこれで見てもわかるのです。則ち人類は混食してゐるのが一番自然なのです。ですから我々は肉食をやめるなんて考へてはいけません。」ずゐぶんみんな堪えたのでしたがあんまりその人の身振りが滑稽でおまけにいかにも小学校の二年生に教へるやうに云ふもんですからたうたうみんなどっと吹き出しました。私共の席から一人がすぐ出て行きました。

「只今の比較解剖学からのご説はどうも腑に落ちないのであります。まづ第一に人類の歯に混食が丁度適当だといふのにいろいろ議論も起りませうがまあこれは大体その通りとしていかゞです、その次に、人類に混食が一番自然だから菜食してはいかんといふのは。

  自然だからその通りでいゝといふことはよく云ひますがこれは実はいゝことも悪いこともあります。たとへば我々は畑をつくります。そしてある目的の作物を育てるのでありますがこの際一番自然なことは畑一杯草が生えて作物が負けてしまふことです。これは一番自然です。前論士がもし農場を経営なすった際には参観さして戴きたい。又人間には盗むといふやうな考があります。これは極めて自然のことであります。そんならそのまゝでいゝではないか。と斯うなります。又異教派の方にも大分諸方から鉄道などでお出でになった方もあるやうでありますが鉄道で一番自然なこと則ちなるべく人力を加へないやうにしまするならば衝突や脱線や人を轢いたりするなどがいゝやうであります。そんならそれでいゝではないかポイントマンだのタブレットだの面倒臭いことやめてしまへと斯う云ふことになりますがどなたもご異議はありませんか。」

斯う云ってその人はさっさっと席に戻ってしまひました。すると異教席からすぐ又一人立ちました。

「私は実は宣伝書にも云って置いた通り充分詳しく論じやうと思ったがさっきからのくしゃくしゃしたつまらない議論で頭が痛くなったからほんの一言申し上げる、魚などは諸君が喰べないたって死ぬ、鰯なら人間に食はれるか鯨に呑まれるかどっちかだ。つぐみなら人に食べられるか鷹にとられるかどっちかだ。そのときと鰯もつぐみもまっ黒な鯨やくちばしの尖ったキスも出来ないやうな鷹に食べられるよりも仁慈あるビヂテリアン諸氏に泪をほろほろそゝがれて喰べられた方がいゝと云はないだらうか。それから今度は菜食だからって一向安心にならない。農業の方では害虫の学問があって薬をかけたり焼いたり潰したりして虫を殺すことを考へてゐる。百姓はみんなそれをやる。鯨を食べるならば一疋を一万人でも食べられ、又その為に百万疋の鰯を助けることになるのだが甘藍を一つたべるとその為に青虫を百疋も殺してゐることになる。まるで諸君の考と反対のことばかり行われてゐるのです。いかがです。」

すぐ又一人立ちました。

「私はたゞ一分でお答へする。第一に魚がどんなに死ぬからってそれが私たちの必ずそれを喰べる理由にはならない。又私たちが魚をたべたからって魚が喜ぶかどうかそんなこともわからない。どうせ何かに殺されるだらうからってこっちが殺してやらうと云ふ訳には参りません。人間が魚をとらなければ海が魚で埋まってしまふといふ勘定さへあるがそんなめのこ勘定で往くもんぢゃない。結局こんな間接のことまで論じてゐたんぢゃきりがない、たゞわれわれはまっすぐにどうもいけないと思ふことをしないだけだ。野菜も又犠牲を払ふといふがそれはわれわれはよく知ってゐる。だから物を浪費しないことは大切なことなのだ。但し穀作や何かならばそんなにひどく虫を殺したりもしないのだ。極端な例でだけ比較をすればいくらでもこんな変な議論は立つのです。結局我々はどうしても正しいと思ふことをするだけなのだ。」

  拍手が起りました。その人は壇を下りました。

  異教徒席の中から赭い髪を立てた肥った丈の高い人が東洋風に形容しましたら正に怒髪天を衝くといふ風で大股に祭壇に上って行きました。私たちは寛大に拍手しました。

  祭司が一人出てその人と並んで招介しました。
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