宮沢賢治のビヂテリアン大祭_22
投稿者: capt_paul_watson 投稿日時: 2008/04/01 21:25 投稿番号: [18729 / 63339]
「只今のご質問はいかにもご尤であります。多少御実験などもお話になりましたが実は遺憾乍らそれはみな実験になって居りません。
動物は衝動と本能ばかりだと仰っしゃいましたがまあさうして置きます。その本能や衝動が生きたいといふことで一杯です。それを殺すのはいけないとこれだけでお答には充分であります。然しながら更に詳しいことは動物心理学の沢山の実験がこれを提供致すだらうと思ひます。又実は動物は本能と衝動ばかりではないのであります。今朝のパンフレットで見ましても生物は一つの大きな連続であると申されました。人間の心もちがだんだん人間に近いものから遠いものに行はれて居ります。人間の苦しいことは感覚のあるものはやっぱりみんな苦しい人間の悲しいことは強い弱いの区別はあってもやっぱりどの動物も悲しいのです。仲々あのパンフレットにある豚のやうに愉快には行かないのであります。飼犬が主人の少年の病死の時その墓を離れず食物もとらずたうたう餓死した有名な例、鹿や猿の子が殺されたときそれを慕って親もわざと殺されることなど誰でも知ってゐます。馬が何年もその主人を覚えてゐて偶に会ったとき涙を流したりするのです。前論者の、ビヂテリアンは人間の感情を以て強て動物を律しやうとするといふのに対して、私は実に反対者たちは動物が人間と少しばかり形が違ってゐるのに眼を欺むかれてその本心から起って来る哀憐の感情をなくしてゐるとご忠告申し上げたいのであります。誰だって自分の都合のいゝやうに物事を考へたいものではありますがどこ迄もそれで通るものではありません。元来私どもの感情はさう無茶苦茶に間違ってゐるものではないのでありましてどうしても本心から起って来る心持は全く客観的に見てその通りなのであります。動物は全く可哀さうなもんです。人もほんたうに哀れなものです。私は全論士にも少し深く上調子でなしに世界をごらんになることを望みます。」
拍手が強く起りました。拍手の中から髪を長くしたせいの低い男がいきなり異教席を立って壇に登りました。
「私はやはりシカゴ畜産組合の技師です。諸君、今朝のマルサス人口論を基とした議論は読んで下すったでせう。どうですそれにちがひありますまい。地球上の人類の食物の半分は動物で半分は植物です。そのうち動物を喰べないぢゃ食物が半分になる。たゞさえ食物が足りなくて戦争だのいろいろ騒動が起ってるのに更にそれを半分に縮減しやうといふのはどんなほかに立派な理くつがあっても正気の沙汰と思はれない。人間の半分十億人が食物がなくて死んでしまふ、死ぬ前にはいろいろ大騒ぎが起るその時ビヂテリアンたちはどうします。自分たちの起した戦争の中へはいってわれらの敵国を打ち亡ぼせと云って鉄砲や剣を持って突貫しますか。それともあゝこんな筈ぢゃなかった神よと云ってみんな一諸にナイヤガラかどこかへ飛び込みますか。そんなことをしたって追ひ付きません。いや、それよりもこんなことになるのはどこの国の政治家でもすぐわかる、これはいかんと云ふわけでお気の毒ながら諸君をみんな終身徴役にしちまひます。まさか死刑にはなりますまいが終身徴役だってそんないゝもんぢゃありませんよ。どうです。今のうち懺悔してやめてしまっては。」
拍手も笑声も起りました。私たちの方から若い脊広の青年が立って行きました。
動物は衝動と本能ばかりだと仰っしゃいましたがまあさうして置きます。その本能や衝動が生きたいといふことで一杯です。それを殺すのはいけないとこれだけでお答には充分であります。然しながら更に詳しいことは動物心理学の沢山の実験がこれを提供致すだらうと思ひます。又実は動物は本能と衝動ばかりではないのであります。今朝のパンフレットで見ましても生物は一つの大きな連続であると申されました。人間の心もちがだんだん人間に近いものから遠いものに行はれて居ります。人間の苦しいことは感覚のあるものはやっぱりみんな苦しい人間の悲しいことは強い弱いの区別はあってもやっぱりどの動物も悲しいのです。仲々あのパンフレットにある豚のやうに愉快には行かないのであります。飼犬が主人の少年の病死の時その墓を離れず食物もとらずたうたう餓死した有名な例、鹿や猿の子が殺されたときそれを慕って親もわざと殺されることなど誰でも知ってゐます。馬が何年もその主人を覚えてゐて偶に会ったとき涙を流したりするのです。前論者の、ビヂテリアンは人間の感情を以て強て動物を律しやうとするといふのに対して、私は実に反対者たちは動物が人間と少しばかり形が違ってゐるのに眼を欺むかれてその本心から起って来る哀憐の感情をなくしてゐるとご忠告申し上げたいのであります。誰だって自分の都合のいゝやうに物事を考へたいものではありますがどこ迄もそれで通るものではありません。元来私どもの感情はさう無茶苦茶に間違ってゐるものではないのでありましてどうしても本心から起って来る心持は全く客観的に見てその通りなのであります。動物は全く可哀さうなもんです。人もほんたうに哀れなものです。私は全論士にも少し深く上調子でなしに世界をごらんになることを望みます。」
拍手が強く起りました。拍手の中から髪を長くしたせいの低い男がいきなり異教席を立って壇に登りました。
「私はやはりシカゴ畜産組合の技師です。諸君、今朝のマルサス人口論を基とした議論は読んで下すったでせう。どうですそれにちがひありますまい。地球上の人類の食物の半分は動物で半分は植物です。そのうち動物を喰べないぢゃ食物が半分になる。たゞさえ食物が足りなくて戦争だのいろいろ騒動が起ってるのに更にそれを半分に縮減しやうといふのはどんなほかに立派な理くつがあっても正気の沙汰と思はれない。人間の半分十億人が食物がなくて死んでしまふ、死ぬ前にはいろいろ大騒ぎが起るその時ビヂテリアンたちはどうします。自分たちの起した戦争の中へはいってわれらの敵国を打ち亡ぼせと云って鉄砲や剣を持って突貫しますか。それともあゝこんな筈ぢゃなかった神よと云ってみんな一諸にナイヤガラかどこかへ飛び込みますか。そんなことをしたって追ひ付きません。いや、それよりもこんなことになるのはどこの国の政治家でもすぐわかる、これはいかんと云ふわけでお気の毒ながら諸君をみんな終身徴役にしちまひます。まさか死刑にはなりますまいが終身徴役だってそんないゝもんぢゃありませんよ。どうです。今のうち懺悔してやめてしまっては。」
拍手も笑声も起りました。私たちの方から若い脊広の青年が立って行きました。
これは メッセージ 18723 (capt_paul_watson さん)への返信です.
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