宮沢賢治のビヂテリアン大祭_21
投稿者: capt_paul_watson 投稿日時: 2008/04/01 20:55 投稿番号: [18723 / 63339]
老人は会釈して壇を下り拍手は天幕もひるがへるやうでした。祭司次長は立って異教席の方を見ました。異教席から瘠せた顔色の悪いドイツ刈りの男が立ちました。祭司次長は軽く会釈しました。その人も答礼して壇に上ったのです。その人は大へん皮肉な目付きをして式場全体をきろきろ見下してから云ひました。
「今朝私どもがみなさんにさしあげて置いた五六枚のパンフレットはどなたも大低お読み下すった事と思ふ。私はたしかに評判の通りシカゴ畜産組合の理事で又屠畜会社の技師です。ところが正直のところシカゴ畜産組合がこのビヂテリアン大祭を決して苦にするわけはない。何となれば只今前論者の云はれたやうなトラピスト風の人間といふものは今日全人類の一万分一もあるもんぢゃない。やっぱりあたり前の人間には肉類は食料として滋養も多く美味である。ビヂテリアン諸氏が折角菜食を実行し又宣伝するのを見た処で感服はしても容易に真似はしない。則ち肉類の需要が減ずるものでもなし又私たちの組合がこわれたり会社が破産したりするものではない。だから一向反対宣伝も要らなければこの軽業テントの中に入って異教席といふこの光栄ある場所に私が数時間窮屈をする必要もない。然しながら実は私は六月からこちらへ避暑に来て居りました。そしてこの大祭にぶっつかったのですから職業柄私の方ではほんの余興のつもりでしたが少し邪魔を入れて見やうかと本社へ云ってやりましたら社長や何かみな大へん面白がって賛成して運動費などもよこし慰労旁々技師も五人寄越しました。そこで私たちは大急ぎで銘々一つずつパンフレットも作り自働車などまで雇ってそれを撒きちらしましたが実は、なあに、一向あなた方が菜っ葉や何かばかりお上がりにならうと痛くもかゆくもないのです。然しまあやりかけた事ですからこれからも一度あのパンフレットを銘々一人ずつご説明して苦しいご返答を伺はうと思ひます。実は私の方でもあの通り速記者もたのんであります、ご答弁は私の方の機関雑誌畜産之友に載せますからご承知を願ひます。で私のおたづね致したいことはパンフレットにもありました通り動物がかあいさうだからたべないとあなた方は仰っしゃるが動物といふものは一種の器械です。消化吸収呼吸排泄循環生殖と斯う云ふことをやる器械です。死ぬのが恐いとか明日病気になって困るとか誰それと絶交しやうとかそんな面倒なことを考へては居りません。動物の神経だなんといふものはたゞ本能と衝動のためにあるです。神経なんといふのはほんの少ししか働きません。その証拠にはご覧なさい鶏では強制肥育といふことをやる、鶏の咽喉にゴム管をあてゝ食物をぐんぐん押し込んでやる。ふだんの五倍も十倍も押し込む、それでちゃんと肥るのです、面白い位肥るのです。又犬の胃液の分泌や何かの工合を見るには犬の胸を切って胃の后部を露出して幽門の所を腸と離してゴム管に結ぶそしてて食物をやる、どうです犬は食べると思ひますか食べないと思ひますか。あっ、どうかしましたか。」
実際どうかしたのでした。あんまり話がひどかった為に婦人の中で四五人卒倒者があり他の婦人たちも大低歯を食ひしばって泣いたり耳をふさいで縮まったりしてゐたのです。式場は俄に大騒ぎになりシカゴの畜産技師も祭壇の上で困って立ってゐました。正気を失った人たちはみんなの手で私たちのそばを通って外に担ぎ出され職業の医者な人たちは十二三人も立って出て行きました。しばらくたって式場はしいんとなりました。婦人たちはみんなひどく激昂してゐましたが何分相手が異教の論難者でしたので卑怯に思はれない為に誰も異議を述べませんでした。シカゴの技師ははんけちで叮寧に口を拭ってから又云ひました。
「なるほど実にビヂテリアン諸氏の動物に対する同情は大きなものであります。も少し言辞に気をつけて申し上げます。えゝ、犬はそれを食べます。ぐんぐん喰べます。お判りですか。又家畜を去勢します。則ち生殖に対する焦燥や何かの為に費される勢力〔エネルギー〕 を保存するやうにします。さあ、家畜は肥りますよ、全く動物は一つの器械でその脚を疾くするには走らせる、肥らせるには食べさせる、卵をとるにはつるませる、乳汁をとるには子を近くに置いて子に呑ませないやうにする、どうでも勝手次第なもんです。決して心配はありません。まだまだ述べたいのですが又卒倒されると困りますからこゝまでに致して置きます。」
その人は壇を下りました。拍手と一処に六七人の人が私どもの方から立ちましたが祭司次長が割合前の方のモオニングの若い人をさしまねきました。その人は落ち着いた風で少し微笑ひながら演説しました。
「今朝私どもがみなさんにさしあげて置いた五六枚のパンフレットはどなたも大低お読み下すった事と思ふ。私はたしかに評判の通りシカゴ畜産組合の理事で又屠畜会社の技師です。ところが正直のところシカゴ畜産組合がこのビヂテリアン大祭を決して苦にするわけはない。何となれば只今前論者の云はれたやうなトラピスト風の人間といふものは今日全人類の一万分一もあるもんぢゃない。やっぱりあたり前の人間には肉類は食料として滋養も多く美味である。ビヂテリアン諸氏が折角菜食を実行し又宣伝するのを見た処で感服はしても容易に真似はしない。則ち肉類の需要が減ずるものでもなし又私たちの組合がこわれたり会社が破産したりするものではない。だから一向反対宣伝も要らなければこの軽業テントの中に入って異教席といふこの光栄ある場所に私が数時間窮屈をする必要もない。然しながら実は私は六月からこちらへ避暑に来て居りました。そしてこの大祭にぶっつかったのですから職業柄私の方ではほんの余興のつもりでしたが少し邪魔を入れて見やうかと本社へ云ってやりましたら社長や何かみな大へん面白がって賛成して運動費などもよこし慰労旁々技師も五人寄越しました。そこで私たちは大急ぎで銘々一つずつパンフレットも作り自働車などまで雇ってそれを撒きちらしましたが実は、なあに、一向あなた方が菜っ葉や何かばかりお上がりにならうと痛くもかゆくもないのです。然しまあやりかけた事ですからこれからも一度あのパンフレットを銘々一人ずつご説明して苦しいご返答を伺はうと思ひます。実は私の方でもあの通り速記者もたのんであります、ご答弁は私の方の機関雑誌畜産之友に載せますからご承知を願ひます。で私のおたづね致したいことはパンフレットにもありました通り動物がかあいさうだからたべないとあなた方は仰っしゃるが動物といふものは一種の器械です。消化吸収呼吸排泄循環生殖と斯う云ふことをやる器械です。死ぬのが恐いとか明日病気になって困るとか誰それと絶交しやうとかそんな面倒なことを考へては居りません。動物の神経だなんといふものはたゞ本能と衝動のためにあるです。神経なんといふのはほんの少ししか働きません。その証拠にはご覧なさい鶏では強制肥育といふことをやる、鶏の咽喉にゴム管をあてゝ食物をぐんぐん押し込んでやる。ふだんの五倍も十倍も押し込む、それでちゃんと肥るのです、面白い位肥るのです。又犬の胃液の分泌や何かの工合を見るには犬の胸を切って胃の后部を露出して幽門の所を腸と離してゴム管に結ぶそしてて食物をやる、どうです犬は食べると思ひますか食べないと思ひますか。あっ、どうかしましたか。」
実際どうかしたのでした。あんまり話がひどかった為に婦人の中で四五人卒倒者があり他の婦人たちも大低歯を食ひしばって泣いたり耳をふさいで縮まったりしてゐたのです。式場は俄に大騒ぎになりシカゴの畜産技師も祭壇の上で困って立ってゐました。正気を失った人たちはみんなの手で私たちのそばを通って外に担ぎ出され職業の医者な人たちは十二三人も立って出て行きました。しばらくたって式場はしいんとなりました。婦人たちはみんなひどく激昂してゐましたが何分相手が異教の論難者でしたので卑怯に思はれない為に誰も異議を述べませんでした。シカゴの技師ははんけちで叮寧に口を拭ってから又云ひました。
「なるほど実にビヂテリアン諸氏の動物に対する同情は大きなものであります。も少し言辞に気をつけて申し上げます。えゝ、犬はそれを食べます。ぐんぐん喰べます。お判りですか。又家畜を去勢します。則ち生殖に対する焦燥や何かの為に費される勢力〔エネルギー〕 を保存するやうにします。さあ、家畜は肥りますよ、全く動物は一つの器械でその脚を疾くするには走らせる、肥らせるには食べさせる、卵をとるにはつるませる、乳汁をとるには子を近くに置いて子に呑ませないやうにする、どうでも勝手次第なもんです。決して心配はありません。まだまだ述べたいのですが又卒倒されると困りますからこゝまでに致して置きます。」
その人は壇を下りました。拍手と一処に六七人の人が私どもの方から立ちましたが祭司次長が割合前の方のモオニングの若い人をさしまねきました。その人は落ち着いた風で少し微笑ひながら演説しました。
これは メッセージ 18722 (capt_paul_watson さん)への返信です.
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