事実の切り貼りは、その結果を変える(2)
投稿者: battamother 投稿日時: 2008/12/29 15:28 投稿番号: [115717 / 118550]
【瀧澤】
1920年代、30年代のソ連では暗殺は日常茶飯事。喜んでやるような連中がソ連諜報部にはたくさんいましたからね。当時彼らが実行した多数の謀殺行動の連鎖に、この事件はぴったりおさまります。同一犯人による殺傷方法の特徴をロシアでは殺しの「筆跡」と言いますが、まさに「筆跡」が一致するのです。ただ、ソ連犯行説も完璧ではありません。『GRU帝国』には情報の出所が明示されていないんです。プロホロフは元軍人なので、未公開文書に触れた可能性はあるものの、それについては本の中でも何も語っていない。私も裏付け情報が出るのを待っているのですが、出版から六年以上もたっても出て来ません。この部分の情報は、まだ全面公開が許可されていないのです。
【伊藤】
私はエイティンゴンが自分の手柄にするために、報告書でもデッチ上げたんじゃないかという印象を受けましたね。
【瀧澤】
おっしゃるとおり、仮にそうした文書が残っていたとしても、“偽の報告書”である可能性もあります。ソ連の情報機関は上からのプレッシャーが強く、手柄の奪い合いや粉飾が頻繁で、偽書も多いですから。
【櫻井】
でもそんな文書をソ連が後生大事に後世まで残すでしょうか。この場合、状況証拠がすごく大事だと思うんです。日本が共同謀議により「支那を征服せんと欲せば、まず満豪を征せざるべからず。世界を征服せんと欲せば、必ずまず支那を征服せざるべからず」という世界征服を目指すとして昭和天皇に上奏されたと言われていた「田中上奏文」がKGBの前身であるOGPU(国家合同警察本部)による「偽造文書」だったことは判明しています。東京裁判でも「田中上奏文」は重視されましたが、「張爆殺」と「田中上奏文」とをセットにして考えるとソ連・コミンテルンの臭いがしませんか(笑)。
【瀧澤】
なるほど。たしかに、本件については、「偽の報告書」である可能性は少ないと思います。ロシア情報部がでっち上げた「田中上奏文」は日本を悪玉にする「偽造文書」ですから今でもロシアでもてはやされています。学術書などにしばしば引用されているのです。
ところが「張作霖爆殺」をやっておいて日本のせいにしたことを「偽造文書」まで作ってわざわざ暴露するでしょうか。そんなことをしても、今のロシア当局にとって益することはないでしょう。プーチンからお目玉を喰らうくらいが関の山です。しかしプロホロフは当局に近かった人物です。でなければ、こういう情報にアクセスできません。
ただ、トロッキーをはじめ、政敵や邪魔者に対する暗殺を命令していたスターリンは、「秘密を紙に残さない」をモットーにしていましたから、もともと記録がなかった可能性もありますね。でもこれだけの大謀略ですから、関係者の証言が現れるのではないかと期待しているんですよ。張爆殺の下手人がソ連であったとの証拠を固めるには、あと一つ二つ史料が欲しいところですね。(後に瀧澤氏はKGB史料をソースとする「赤い蜘蛛の巣」を読む。注・バッタ)
でも、当時のハルビンにおけるソ連特務機関の動きを細かく分析すれば、かぎりなくクロに近い疑惑と言えます。
【伊藤】
私はやはり日本の軍部がやったと考えています。というのは田中義一内閣の鉄道大臣だった小川兵吉の手記(『小川平吉関係文書』みずず書房)によると、現地から詳細な報告とともに事後処理に関する相談を受けていることがわかるからです。「国民党更衣隊員の仕業に見せかけるために用意していた中国人の一人に逃げられてしまった。この用意をした中国人を逃がすために費用が必要だ」という生々しいやり取りが出てくるんですよ。
【櫻井】
小川平吉は宮沢喜一元首相のおじいさんですね。
【伊藤】
そう、資金を捻出するため、小川は私鉄の買収路線延長認可に絡んで賄賂を取り、その費用にあててます(笑)。これは後に疑獄事件に発展します。
【瀧澤】
東京裁判で検察側の証人として出廷した外交官、森島守人も同じようなことを著書『陰謀・暗殺・軍刀』(岩波新書)に書いています。しかし、これらはいずれもいわゆる伝聞証拠です。伝聞を主とした日本の文献と当事者の行動記録から成るロシアの文献を読み比べてみると、明らかにロシアの文献の方に迫真性があります。それに、ロシアの犯人たちはいずれ劣らぬ「必殺仕掛人」たちで、張作霖爆殺の主犯と『GRU帝国』で名指しされたサルヌィニのように十代で殺しの味をしめ、同じような犯行を各国で繰り返し実行し、他人の犯行に見せかけてきたプロ中のプロです。彼らから見たら、河本大佐などというのはボーイスカウトですね。
1920年代、30年代のソ連では暗殺は日常茶飯事。喜んでやるような連中がソ連諜報部にはたくさんいましたからね。当時彼らが実行した多数の謀殺行動の連鎖に、この事件はぴったりおさまります。同一犯人による殺傷方法の特徴をロシアでは殺しの「筆跡」と言いますが、まさに「筆跡」が一致するのです。ただ、ソ連犯行説も完璧ではありません。『GRU帝国』には情報の出所が明示されていないんです。プロホロフは元軍人なので、未公開文書に触れた可能性はあるものの、それについては本の中でも何も語っていない。私も裏付け情報が出るのを待っているのですが、出版から六年以上もたっても出て来ません。この部分の情報は、まだ全面公開が許可されていないのです。
【伊藤】
私はエイティンゴンが自分の手柄にするために、報告書でもデッチ上げたんじゃないかという印象を受けましたね。
【瀧澤】
おっしゃるとおり、仮にそうした文書が残っていたとしても、“偽の報告書”である可能性もあります。ソ連の情報機関は上からのプレッシャーが強く、手柄の奪い合いや粉飾が頻繁で、偽書も多いですから。
【櫻井】
でもそんな文書をソ連が後生大事に後世まで残すでしょうか。この場合、状況証拠がすごく大事だと思うんです。日本が共同謀議により「支那を征服せんと欲せば、まず満豪を征せざるべからず。世界を征服せんと欲せば、必ずまず支那を征服せざるべからず」という世界征服を目指すとして昭和天皇に上奏されたと言われていた「田中上奏文」がKGBの前身であるOGPU(国家合同警察本部)による「偽造文書」だったことは判明しています。東京裁判でも「田中上奏文」は重視されましたが、「張爆殺」と「田中上奏文」とをセットにして考えるとソ連・コミンテルンの臭いがしませんか(笑)。
【瀧澤】
なるほど。たしかに、本件については、「偽の報告書」である可能性は少ないと思います。ロシア情報部がでっち上げた「田中上奏文」は日本を悪玉にする「偽造文書」ですから今でもロシアでもてはやされています。学術書などにしばしば引用されているのです。
ところが「張作霖爆殺」をやっておいて日本のせいにしたことを「偽造文書」まで作ってわざわざ暴露するでしょうか。そんなことをしても、今のロシア当局にとって益することはないでしょう。プーチンからお目玉を喰らうくらいが関の山です。しかしプロホロフは当局に近かった人物です。でなければ、こういう情報にアクセスできません。
ただ、トロッキーをはじめ、政敵や邪魔者に対する暗殺を命令していたスターリンは、「秘密を紙に残さない」をモットーにしていましたから、もともと記録がなかった可能性もありますね。でもこれだけの大謀略ですから、関係者の証言が現れるのではないかと期待しているんですよ。張爆殺の下手人がソ連であったとの証拠を固めるには、あと一つ二つ史料が欲しいところですね。(後に瀧澤氏はKGB史料をソースとする「赤い蜘蛛の巣」を読む。注・バッタ)
でも、当時のハルビンにおけるソ連特務機関の動きを細かく分析すれば、かぎりなくクロに近い疑惑と言えます。
【伊藤】
私はやはり日本の軍部がやったと考えています。というのは田中義一内閣の鉄道大臣だった小川兵吉の手記(『小川平吉関係文書』みずず書房)によると、現地から詳細な報告とともに事後処理に関する相談を受けていることがわかるからです。「国民党更衣隊員の仕業に見せかけるために用意していた中国人の一人に逃げられてしまった。この用意をした中国人を逃がすために費用が必要だ」という生々しいやり取りが出てくるんですよ。
【櫻井】
小川平吉は宮沢喜一元首相のおじいさんですね。
【伊藤】
そう、資金を捻出するため、小川は私鉄の買収路線延長認可に絡んで賄賂を取り、その費用にあててます(笑)。これは後に疑獄事件に発展します。
【瀧澤】
東京裁判で検察側の証人として出廷した外交官、森島守人も同じようなことを著書『陰謀・暗殺・軍刀』(岩波新書)に書いています。しかし、これらはいずれもいわゆる伝聞証拠です。伝聞を主とした日本の文献と当事者の行動記録から成るロシアの文献を読み比べてみると、明らかにロシアの文献の方に迫真性があります。それに、ロシアの犯人たちはいずれ劣らぬ「必殺仕掛人」たちで、張作霖爆殺の主犯と『GRU帝国』で名指しされたサルヌィニのように十代で殺しの味をしめ、同じような犯行を各国で繰り返し実行し、他人の犯行に見せかけてきたプロ中のプロです。彼らから見たら、河本大佐などというのはボーイスカウトですね。
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