紫陽花亭日乗

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提婆達多 ③

投稿者: ajisai110701 投稿日時: 2011/07/13 20:35 投稿番号: [80 / 735]
城外の広野で行われる、例年の耕耘祭(コウウンサイ)の日。

祭りが行われているところから少し離れた美しい閻浮樹の木陰にたたずんで、
シッタルタは提婆達多に呼びかけた。

「提婆達多」
「この頃度々卿に語ったあの事を私はいよいよ決行しようと思う」
「これまですでにあまりながく考え過ぎた。今は実行に入るべき時である」

提婆達多は困惑の色を見せた。

「私はなんと答えてよいかわからない。
私は卿のためには諸手をあげてそれを祝いたいと思う。
とはいえ卿を愛し卿を力とする人々を思えば私は・・・・・」

耕耘の祭りが終ったその夕べ、提婆達多はひとりほくそえみつつ
心地よげに馬を駆って己が城に帰った。


しかしながら、事は提婆達多の期待したように順調にははこばなかった。
提婆達多はもどかしさに焦れた。
だが軽挙してせっかくここまで仕上げた仕事を自ら打ち壊すような浅慮なことはしなかった。
彼はじっと辛抱して熟柿の落ちるのを待っていた。


そんなある日のこと、シッタルタが従者のチュンダカとともに出遊していたところへ、
城の父王からの使者がやってきて、ヤショダラが男子を産んだことを告げた。

シッタルタは冷ややかにひとりごちた。

「羅<目侯>蘿が生まれた」


「羅<目侯>蘿」は「ラゴラ」或いは「ラーフラ」。
「障碍物」の意味と聞く。
山折哲雄先生は「羅<目侯>蘿」は「悪魔」と同義であるという。


それから七日の後、夜半、シッタルタはひそかに城を出た。
父母を棄て、妻子を棄て、富と名と力を棄て、歓楽尽くることなき太子の生活を棄てて、
いずこともあてどなく、甘露のごとく甘く、真珠のごとく美しき真理の果を見出すべく。

未だ己があかごを抱いていなかった。シッタルタは心のなかでラーフラのことを思った。

「私は仏陀となってからこの子を見よう」


伝説によれば、シッタルタはチュンダカと出遊の際、
路に老人と病者と死屍ととを見、最後に威儀ある沙門の姿を見て、
ついに出離を決心したという。



つづく

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