紫陽花亭日乗

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提婆達多 ①

投稿者: ajisai110701 投稿日時: 2011/07/13 20:18 投稿番号: [78 / 735]
釈迦族の王・首図駄那王が統治するカピラバストゥーで、
今しもある一大イベントが行われようとしていた。

同じ釈迦族の一支流である拘利(コーリ)族のスプラブッドハ王が、
目に入れてもいたくないほど可愛がっている王女ヤショダラを伴って、
このカピラバストゥーに乗りこんで来たのだ。

それは、愛娘ヤショダラの婿選びのためだとは、
当然、上下を問わず誰しもが想像しうることだった。


はじめ、提婆達多はヤショダラを見て「鴎」のようであるとして落胆した。
彼は勝手に孔雀のような乙女を想像していたのだ。

嘗て提婆達多の手に落ちない娘はいなかった。
ヤショダラは彼の食指を動かすに足る娘ではなかった。


ヤショダラの配偶者の座をかけた競技は剣の試合でっあった。
これにはスットーダナ王の皇太子である悉達多(シッタルタ)はもとより、
釈迦一族の高貴な王子たちがみな参加した。
シッタルタと提婆達多は従兄弟の関係にあたる。
シッタルタは後の仏陀である。

その勝抜き戦に、提婆達多は難なく勝利した。
シッタルタはからくも勝抜いて漸く最後の二人に残ることができた。
ヤショダラという賭物を得んと戦うは、シッタルタと提婆達多と。

決勝戦において、シッタルタは提婆達多の敵ではなかった。
シュットーダナ王もシッタルタに期待をかけなかった。

提婆達多はわざとシッタルタに先取点を与えた。
それは提婆達多が自身の勝利を信じて豪も疑わない余裕から出た行動であった。
次は提婆達多が難なく勝った。
決勝の一点。提婆達多の心に雑念が湧いた、
その一瞬の隙に乗じたシッタルタの剣が提婆達多の肺部をずずんと突いた。
提婆達多はたじたじと後退し、もちこたえられなくなって後ろにどうと倒れた。


数々の戦において敵の心胆を寒からしめたシャカ族の重宝である強弓が、
勝利者に与えられた。

ヤショダラの乗って来た美々しく飾りたてられた白象が、勝利者に与えられた。

白象に乗って退場しかけたシッタルタは、茫然自失の提婆達多に、
これみよがしに勝ち誇って声をかけた。

「提婆達多」

提婆達多はさっと顔色を変えた。
彼の血は燃え上がった。
もともと提婆達多は、この陰気臭い、瞑想好きな、痩せて長大な、
男らしさのないシッタルタを好きではなかった。

提婆達多は、このまぐれあたりで自分に勝利した弱敵に対し、
消し難い鬱憤と憎悪を抱いた。


「シッタルタ、誇るなら誇れ、弓や象は貴様にやった。
だが女だけはこっちのものだぞ」


つづく

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