紫陽花亭日乗

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刺客列傳 第五話 「荊軻」 転の段 4

投稿者: ajisai110701 投稿日時: 2011/08/12 01:07 投稿番号: [296 / 735]
是時侍醫夏無且、以其所奉藥嚢提荊軻也。秦王方環柱走。
卒惶急、不知所爲。左右乃曰。王負劔。負劔、遂抜以撃荊軻、斷其左股。
荊軻廢。乃引其匕首、以●秦王。不中。中桐柱。秦王復撃軻。軻被八創。
軻自知事不就、倚柱而笑、箕踞以罵曰。事所以不成者、以欲生劫之、
必得約契、以報太子也。於是左右既前殺軻。秦王不怡者良久。
已而論功賞羣臣、及當坐者各有差。而賜夏無且黄金二百溢。
曰。無且愛我、乃以藥嚢提荊軻也。

●「テヘン」+「適」

是の時、侍醫・夏無且(かむしょorかぶしょ)、其の奉ずる所の
藥嚢(やくのう)を以て荊軻に提(なげう)つ。
秦王、方に柱を環(めぐ)りて走る。卒(にわか)に惶急し、爲す所を知らず。
左右乃ち曰く、「王、劔を負え」。
劔を負い、遂に抜きて以て荊軻を撃ち、其の左股を斷つ。
荊軻廢(たお)る。乃ち其の匕首を引き、以て秦王に●(なげう)つ。
中(あた)らず。
桐柱に中(あた)る。秦王復た軻を撃つ。軻、八創を被(こうむ)る。
軻自ら事の就(な)らざるを知り、柱に倚りて笑い、
箕踞(ききょ)して以て罵しりて曰く、
「事の成らざる所以(ゆえん)は、以て生きながらこれを劫(おびやか)し、
必ず約契を得て、以て太子に報ぜんと欲したればなり」
是に於て左右既に前(すす)みて軻を殺す。秦王怡(よろこ)ばざること
良(やや)久し。
已にして功を論じ羣臣を賞し、及び坐に當れる者各々差有り。
而して夏無且に黄金二百溢を賜ふ。
曰く、「無且、我を愛し、乃ち藥嚢(やくのう)を以て荊軻に提(なげう)てり」


この時、秦王の侍医をしている夏無且(かむしょorかぶしょ)が、
捧げ持っていた藥嚢(やくのう)を荊軻めがけて投げつけた。

秦王は銅柱のまわりをかけ廻って逃げているところだ。
まさしくこの危急存亡のときにうろたえ慌てて、
どうしたらいいかわからなかった。

やっとのことで左右の侍臣が声をかける。「王、剣を背負いたまえ」

剣を背中に負い、やっとのことで剣をひき抜き荊軻に斬りかかる。
荊軻の左股を斬り落とす。荊軻くずれおちる。
そこで例の匕首を引き寄せ、秦王めがけて投げつける。
あたらない。桐柱にあたる。

秦王はまた荊軻に斬りつける。荊軻は身に刀傷八創を受けた。

荊軻は謀(はかりごと)の失敗を悟り、柱によりかかって笑い、
尻を床につけ足を投げ出して罵って言った。

「事が成就しなかった所以(ゆえん)は、秦王を生かしたまま脅迫し、
必ず約束を取りつけ、それを持って太子丹に報告したいと思ったからだ」

ここにきてやっと左右の侍臣が進み出て荊軻を殺した。

秦王はしばらく不機嫌であった。それから論功行賞があり、
群臣を賞し、罪に当たる者を罰した。それぞれに差が有った。

夏無且には黄金二百溢(いつ)が下賜された。

「無且は、わたしを大切に思い、そこで藥嚢(やくのう)を
荊軻に投げつけたのだ」ということだった。


つづく

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