紫陽花亭日乗

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詩四首(三)     蘇武

投稿者: ajisai110701 投稿日時: 2011/07/23 23:44 投稿番号: [175 / 735]
詩四首(三)       蘇武(漢・前142〜前60)


異郷にあって、友に別れ、ひとり帰るにあたってその情を叙べたもの
黄鵠一遠別       黄鵠   一たび遠く別れ
千里顧徘徊       千里にして   顧みて徘徊す
胡馬失其羣       胡馬   其の羣を失ひ
思心常依依       思心   常に依依たり
何況雙飛龍       何ぞ況んや   雙飛の龍
羽翼臨當乖       羽翼   當に乖(そむ)くべきに臨むをや
幸有絃歌曲       幸に絃歌の曲有り
可以喩中懐       以て中懐を喩ふ可し
請爲遊子吟       請うて遊子の吟を爲せば
●●一何悲       ●●(れいれい)として一に何ぞ悲しき
絲竹窅芿聲       絲竹は芿聲を窅(はげ)しくし
慷慨有餘哀       慷慨して餘哀あり
長歌正激烈       長歌   正に激烈
中心愴以摧       中心   愴(そう)として以て摧(くだ)く
欲展清商曲       清商の曲を展(の)べんと欲して
念子不能歸       子の歸る能はざるを念ふ
俛仰内傷心       俛仰(ふぎょう)して内に心(しん)を傷(いた)ましめ
涙下不可揮       涙   下りて揮ふ可からず
願爲雙黄鵠       願はくば雙黄鵠と爲りて
送子倶遠飛       子を送って倶に遠く飛ばんことを

●・・・さんずい   +   「令」    レイ


空飛ぶ黄鵠も一たび遠く別れ去れば
千里の彼方からでも、後ふりかえり名残り惜しんで徘徊し
えびすの馬がそのなかまを離れると
ともを思うて、いつも心に恋いしたうという
まして君とわれとは、連れそうて飛ぶ龍の如き身であるのに
今や互いに翼を分かたねばならぬこととなっては、いっそうたえがたい
幸いにも、わが心中の悲しみをなぞろうべき絃歌の曲があるから
遊子故郷を思うの曲を歌わしてもらうと
すみきった声の何と悲しいことよ
糸竹の調べは、すんだ音色をはげしく高め
それが心のなげきをそそって悲しみはつきない
長い歌曲がすさまじくひびけば
心は痛んでくだけるばかり
この清調悲痛の曲をつづいて奏し、わが情をつくしたくは思ったが
ともに帰ることのできぬ黄身の身を思うと、このうえ歌う気にはなれない
むなしく天を仰ぎ、地に俯して心は痛み
はふりおちる涙を拭うすべすらない
できることなら二羽の黄鵠となり
君に連れそうてどこまでも飛んでゆきたいものを


★内田泉之助『古詩源』上, 集英社, 漢詩大系4


つづく

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