朝鮮を笑う

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斜め上の雲 76

投稿者: toapanlang 投稿日時: 2006/08/22 19:20 投稿番号: [1727 / 2847]
  華秉と世実も、民主化運動に昂奮した。大学受験を目前にひかえていたため直接行動はできなかったが、ひまがあれば民主国家大韓民国の未来について語りあった。
  秋が深みはじめたある日、世実は華秉が勉強をおえたころを見はからってたずねてきて、
「相談があるんだが」
  と、もちかけた。
「ウリナラは民主主義を推進しているが、歴史をかんがみればどうなんだろう」
  と華秉にいった。
  華秉は、くびをかしげた。学校の授業以外で朝鮮半島の歴史というものをふかく追求したことがない。
「教科書にはのってなかったな」
  と、華秉はいった。華秉にいわせると、教科書にのっている歴史というものは砂か真水のようで、要するに味気がない。優秀な民族であるウリミンジョクにはそれにふさわしい雄大な歴史があるはずだし、それを解きあかして民族の精気を振興するのが学者の役目である。
「そのへんが不足しているんだろうな」
  と、華秉はいった。
  それをきいて世実はみるみる顔をキムチ色にし、とうとうと弁じはじめた。
「やはり華秉もそう思うか。優秀な韓民族にはそれにみあった優秀な歴史が存在するはずだ。それを解明する学者をさまたげる邪魔物があるんだ」
「邪魔物とは、なんだ」
「日帝教育を受けた歴史学者どもだ」
  と、世実はいった。
  今の歴史学界の重鎮たちは、日帝強占下で教育を受けたため、韓民族を否定的にみる奴隷根性がすりこまれているという。
「いやしい根性で韓民族を卑下する獅子身中の虫というものだ。このことをおもうとかんしゃくおこる気持になって及びそうだ」
「されば、その研究をやればよかろうが」
  と華秉がいうと、世実はにがい顔をした。かれの追求力や粘着力はすぐれているが、考えを結晶化させる力が乏しいと自覚している。大学へ行ってその研究に取りくんだところで先人たちのひしめくこの分野でどれほどのことができるか、というのである。

  語りあっているうちに、世実が急に、
「華秉、顔色のすぐれぬのはどうしたわけだ」
  ときいた。
  華秉は、苦笑し、
「じつは、ウリもな」
  なやんでいるんだ、といった。
  華秉のばあい、世実とちがって環境についての悩みであった。
  かれの養父金源五は銀行の支店長をつとめ、この時期は頭取になっていたが、盧泰愚政権がすすめていた「五共清算」という全斗煥時代の不正の追求によって全の親族や財閥オーナーら四十七人が逮捕、二十九人が在宅起訴される事態の巻き添えをくらって職を追われ、その打撃によって床に伏せる日が続くようになったのである。収入はとだえ治療費だけがかさんでいった。
  かつて華秉をすくった兄の錫元にはもうたよれない。錫元は一家をかまえており、しかも子供が多いうえに妻文春香の実家にも送金している。むろん軍事研究にも私費を投じておりとても余裕はない。
  しかし、韓国はすでに高学歴社会に入っている。大学を出ていなければまっとうな――韓国社会での価値観であるが――職につけるものではない。

  となると、結局、学費無用の学校にゆくしか解決するみちはない。むろんそんなものは一つしかない。
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