斜め上の雲 24
投稿者: toapanlang 投稿日時: 2006/04/21 13:51 投稿番号: [1381 / 2847]
試験がはじまった。
論文の考査である。錫元は、さきに願書を出したとき論文があるということは大尉からきかされなかった。
(ヤッカイだな)
とおもった。作文ならともかく論文というものは書いたことも読んだこともない。
そんなことで、試験を受けた。
正面に、題が貼りだされている。
「仁王山ヲ守ル」
というのが題であった。
錫元は、なんのことかわからない。インワンサンという山がこの世にあろうとは夢にも知らないのである。
仁王山とは、ソウルの西大門ちかくにある土地である。風水説ではソウルの西をまもる白虎とされている。ソウルの者なら子供でもその地名は知っているであろう。
が、錫元が知るわけがない。
(こりゃ、山の名ではあるまい。仁王、山ヲ守ル、とよむべきではないか)
そうだと思い、そう思うと急に勢いが出てきて書きはじめた。
「京城ヨリ北東ニユクコト何里ゾ。東海ヲ望ミテ名山アリ。ソレ山容嶮シクシテ神韻ヲ帯ブ。古ノ浮屠ノ霊場ナリ。仁王ノ守護セシニヨリテ金剛山ト名ヅク」
というところから書きはじめ、その山は仁王によって守られている仏教の聖地だという描写をした。
とにかく時間いっぱいで書きあげて校庭に出てみると、ぼんやり立っている連中がいる。どうしたのかと思って会話に耳をすますと、かれらも仁王のほうであった。
「ソウルっ子どもが話しているのをきくと、あれはソウルの地名じゃそうじゃな。インワンサンと読み、仁王で無(の)うて兵隊が山をいかに守るかという題であるそうな」
「ソウルっ子なら誰でも知っているじゃろ。得をしよったな」
(田舎者は来るなということか)
この出題から考えればそうであろう。出題者はひょっとすると旧大韓帝国の両班で、田舎者をばかにしているのかもしれなかった。
10日ほど、何の通知もなかった。毎日、旅人宿(ヨインスク)で待った。
――こりゃ、落ちたな。
と、金錫元はおもった。軍内にもし知り合いがおれば学校に問いあわせてもらえるのだが、退役した金錫源以外につてはなく、あいにくその金錫源も鎮海にはいない。
――どうしよう。
とおもった。旅人宿の宿泊費もかさみ、財布のなかみは心もとない。日々の食事さえ事欠くありさまで、仕方なく海で釣った魚を食べてなんとか飢えをしのいでいる。
そんなとき、来客があった。
金錫源のもとで参謀長をつとめた崔慶禄である。今は准将として憲兵司令官をつとめている。錫元が陸士を受けたことをきいて、公用で鎮海に来たついでに見にきたらしい。
崔は錫元の顔を見るなり、
「しかし、よかったな」
といった。なんのことですか、ときくと、崔は不審な顔をした。
「知らなかったのか」
金錫元は合格しているのである。崔が公用で陸士に行ったときにきいたのだという。錫元はようやく微笑した。
(これで、救われた)
とおもった。その場から崔につきそわれて学校にゆき、入学手続きをおこなった。
論文の考査である。錫元は、さきに願書を出したとき論文があるということは大尉からきかされなかった。
(ヤッカイだな)
とおもった。作文ならともかく論文というものは書いたことも読んだこともない。
そんなことで、試験を受けた。
正面に、題が貼りだされている。
「仁王山ヲ守ル」
というのが題であった。
錫元は、なんのことかわからない。インワンサンという山がこの世にあろうとは夢にも知らないのである。
仁王山とは、ソウルの西大門ちかくにある土地である。風水説ではソウルの西をまもる白虎とされている。ソウルの者なら子供でもその地名は知っているであろう。
が、錫元が知るわけがない。
(こりゃ、山の名ではあるまい。仁王、山ヲ守ル、とよむべきではないか)
そうだと思い、そう思うと急に勢いが出てきて書きはじめた。
「京城ヨリ北東ニユクコト何里ゾ。東海ヲ望ミテ名山アリ。ソレ山容嶮シクシテ神韻ヲ帯ブ。古ノ浮屠ノ霊場ナリ。仁王ノ守護セシニヨリテ金剛山ト名ヅク」
というところから書きはじめ、その山は仁王によって守られている仏教の聖地だという描写をした。
とにかく時間いっぱいで書きあげて校庭に出てみると、ぼんやり立っている連中がいる。どうしたのかと思って会話に耳をすますと、かれらも仁王のほうであった。
「ソウルっ子どもが話しているのをきくと、あれはソウルの地名じゃそうじゃな。インワンサンと読み、仁王で無(の)うて兵隊が山をいかに守るかという題であるそうな」
「ソウルっ子なら誰でも知っているじゃろ。得をしよったな」
(田舎者は来るなということか)
この出題から考えればそうであろう。出題者はひょっとすると旧大韓帝国の両班で、田舎者をばかにしているのかもしれなかった。
10日ほど、何の通知もなかった。毎日、旅人宿(ヨインスク)で待った。
――こりゃ、落ちたな。
と、金錫元はおもった。軍内にもし知り合いがおれば学校に問いあわせてもらえるのだが、退役した金錫源以外につてはなく、あいにくその金錫源も鎮海にはいない。
――どうしよう。
とおもった。旅人宿の宿泊費もかさみ、財布のなかみは心もとない。日々の食事さえ事欠くありさまで、仕方なく海で釣った魚を食べてなんとか飢えをしのいでいる。
そんなとき、来客があった。
金錫源のもとで参謀長をつとめた崔慶禄である。今は准将として憲兵司令官をつとめている。錫元が陸士を受けたことをきいて、公用で鎮海に来たついでに見にきたらしい。
崔は錫元の顔を見るなり、
「しかし、よかったな」
といった。なんのことですか、ときくと、崔は不審な顔をした。
「知らなかったのか」
金錫元は合格しているのである。崔が公用で陸士に行ったときにきいたのだという。錫元はようやく微笑した。
(これで、救われた)
とおもった。その場から崔につきそわれて学校にゆき、入学手続きをおこなった。
これは メッセージ 1369 (toapanlang さん)への返信です.
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